「沖田さん、大丈夫でしょうか?」

呟くと土方さんが、困ったような顔で私を見下ろした。

「あのヤロウ、無理してないと良いけどな。」

そう言って視線を前へと戻した。無理して欲しくないのはあなたもです、と言おうとしたけれど言葉を飲み込んだ。今、この現状、誰もが無理をしてばかりで、誰もが無理をしないとどうにもならないという事実。

それでも私は、彼等に守ってもらっている。沖田さんの療養先に残り、看病に励むという選択肢もあった。私はそれを選ぶつもりだった。
けれど沖田さんがそれを拒んだ。いつもの意地悪な笑顔で。

「必要がない。」そう言った。

私は土方さんと北へ行く選択をとった。土方さんが呆れた笑みで私を見て言った。

「総司の言葉なんざ気にすんな。あいつ、自分が弱っていく姿をお前に見せたくないんだとよ。」

だから最後に突き放した。戻ることの無いよう。

「なにより、僕が彼女を傍に置きたいと思ったとしても、もしこの病が彼女に移るようなことがあれば。僕はそれが何よりも耐えられないんです。」

そう言って笑ったという。土方さんが気にかけてくれて作った嘘かとも思ったけれど、彼がそのような嘘の台詞を作るとは思えなかった。
その時はただただ泣いた。
土方さんは黙って、肩を貸してくれた。彼の厚い手が頭を優しく撫でて、私はまだ真新しい土方さんの洋服を濡らした。

そして今も、私は土方さんや島田さん達に守られて生きている。

島田さんが沖田さんの療養先に行った時の話をしてくれた。調子は良さそうだと笑っていた。

「近藤さんが斬首刑にされたとは言えませんでした。」

島田さんは土方さんにそう告げた。言わない方があいつの為だ、と土方さんは目を伏せた。沖田さんは、近藤さんの安否を、なによりも気にかけていたと言う。
雪村君、君は元気か?とも言っていたよ、と聞いて、沖田さんの中に少しでも私が残っているのかと思い、嬉しくなった。



それからしばらくして、沖田さんが死んだという報告がきた。

「勇さんを追いかけて逝っちまったか。」

涙をこらえた目で、土方さんは呟いた。沖田さんはまだ近藤さんが生きていると思ったまま死んでしまった。

「総司に黙ってたのがばれちまうな。たぶんあっちで、すぐ再会するだろう。」土方さんは自傷気味に笑った、下瞼に涙をためたまま。

一人きりで逝った沖田さんにも、気丈に耐えようとする土方さんにも、胸が痛めつけられた。
結局、私はなに一つ助けてあげられなくて。
私の両目からは終わりがないのか、涙が永延と流れ続けた。



「あの時、お前を総司の傍に無理矢理にでも置いて置くべきだったかな。」

そうすれば最期に一人にならないで済んだ、と土方さんが漏らした。もうあれから何日も立っていて、悲しみに明け暮れる暇もないほどの日常を送っていた。そんな中、彼は突然呟いた。

「そんなこと・・・。だって、沖田さんは、私が土方さんについて行くことを望んだんです。私は新選組を見届ける義務があります。」

「総司にも、色んな覚悟があったんだろうな。だが、お前と離れることを心から望んでいたとは思わねぇ。・・・なあ、千鶴。お前も総司のこと好きだったんだろう?」

少し間を置いて問われた質問に、心臓が締め付けられるような気がした。何も答えずに、土方さんを見ると、眉を寄せて困ったような顔で笑っていた。

「はい、好き、でした。」

そして今も。やっと口からでた言葉。初めて沖田さんに対して、口にした想い。それが今、こんなにも心臓を締め付ける。

土方さんは、私が泣き止むまで、ずっと傍にいてくれた。

「お前らを離しちまったのは、俺の責任だな」と嘆いた言葉に、すぐさま否定をいれ、歩き出した土方さんの後ろを追いかけた。

ねぇ、沖田さん。私はまだ土方さんと共に、新選組と共に戦場に向かいます。きっと沖田さんは土方さんのことも心配だったのでしょうね。できる限りの事をして土方さんを支えていくので安心してください。

そしてこの戦争が終わったら、あなたに会いに行きます。
言いそびれた言葉をどうか、聞いてください。







ーーー
捏造ルートエンド。
このあと、土方ルートにいく選択肢があったりなかったり。



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