初音ミクに理不尽な怒られ方をした翌日、鏡音リンは登校してきた。とくに話し掛けなかったが、顔色も大分良い。そしていつも通りの無愛想だ。

それなのにいつもと違って見えた。すごく可愛く見えた。まぁ、普通以上に可愛い子なんだけど。俺にお礼を言いたいと彼女が言ったと聞いて、不覚にも嬉しくなった。お見舞いを渡した相手だから、俺にお礼とかなんて、正直普通のことなんだが。

「おはよう、レン。なんか昨日ミクが絡んできたらしいな。」

ぼんやりと考えていると背後から聞きなれた声。ふりかえると、爽やか笑顔のイケメンがいた。

「ミクオか、おはよう。あぁ、そうだよ。つかなんで昨日休んだ。」

クラスメイトの初音ミクオ。表向きはかなりの爽やかイケメンで、誰にでも優しい。うわさだとファンクラブさえあると聞く。実際は腹黒い男だというのに。

「昨日?あぁ、家出るのが面倒になっちゃって。大丈夫、学校には病欠になってるかさ。」

「ふーん、真面目に学校来いよ。そういや初音さんの件、誰に聞いたの?変な噂にはなってないよな?」

その件で話があったんだ、と言って、ミクオは隣の席に腰掛けた。ちょっとばかり改まった感じになり、俺は身構える。

「知ってると思うけど、ミクって俺の従兄弟でさ。」

まずその情報から知らなかった。つか言われてみれば、まんまじゃん。

「ミクはさ、鏡音リンのことが好きなんだよ。」

「そうなんだ。まぁ、仲良しだしね。二人。」

そう答えると、ミクオはあからさまにため息をついた。

「お前さ、昨日ミクに色々言われて、おかしいと思わなかったか?理不尽すぎる理由で怒られて。」

なるほど、ミクオは昨日の内容を知っているわけか。まぁ、従兄弟である初音さんに相談でも受けたのだろう。そして、ミクオが言った理不尽すぎる理由という言葉に俺は反応した。

「いや、かなりおかしいかな、と。怒られる理由にしては、ちょっとあれだよな。」

そう答えると、だよな、という返事がきた。

「ミクは鏡音リンのことが好きなんだよ。」

ミクオはまた同じことを言った。たけど、さっき俺に伝わった意味とは違う意味で俺の中に入ってきた。
それはつまり、

「恋愛感情という意味で?」

「そう。」

あっさりと肯定されて、それに返す言葉に迷う。そんな俺に気づいたのか、ミクオは続けた。

「今までは良かったんだ。鏡音リンはああいう性格で、なかなか人を寄せ付けない。だから、ミクだけが近くにいた。」

「うん。」

「本当に鏡音リンは他人に興味がなくてね。それどころか他人と関わり合いたくない。話す事すら面倒に思っている子だ。だから、お前からのお見舞い品を受け取ることなんてあり得なかったんだよ。」

「え?」

「お前が無理矢理鏡音リンに押し付けたとしても、鏡音リンか素直に受け取ったとしても、だ。ミクにとっては面白くない出来事なんだよ。」

まぁミクには、レンはそれなりにイイヤツだって言っといたけどな!とミクオは付け加えた。それなりに、は余計だが、ミクオなりにフォローしてくれているらしい。

「なるほどね、初音さんは純粋に俺が気に食わないんだね。」

俺はチラリと、一人座る鏡音さんを見た。そこまで他人を拒絶する子が、俺の見舞品を受け取ったのは、風邪で弱っていたからだろうか。

「鏡音リンが、お前の事が好きだというパターンもあるけどな。別にあの子だって普通の女子だと思うし。」

ミクオの発言に俺は目を丸くした。まさか、それは。

「ないだろ。」

あっさりと答えてはみたが、もしそうなら、とか考えてしまう。
それなら、やはり、嬉しい、とか。そんな考え事を顔に出していたのか、ミクオはニヤリと嫌な笑みを顔に乗せた。

「お前も普通の男子、だもんな。」

と面白げに言った。少し腹が立って文句を言おうとした矢先、ミクオがいつもの爽やかスマイルを俺の後ろ側に向けていた。

「おはよう、リンちゃん。」

そう口にしたミクオの目線の辿って振り返ると、鏡音さんがじっと立っていた。






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またリンちゃんがいない!
あと少しお付き合いくださいませ。



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