「僕はもう死ぬよ。」そう言って笑ってみせた時のあの子表情はどんなだったか。哀れんだ顔だったか。でもあの子なら怒っていたかもしれない。なんてこと言うんですか!って。なんにしても、そうだ、きっと。泣き出しそうな顔だったに違いない。

(思い出せない事が、増えたな。)

立ち上がることも困難になった今、自分の死期というものが、否応なしに見えてくる。死ぬ間際に、走馬灯のように今までが頭を巡ると言うならば、あの時のあの子の表情は思い出せるのだろうか。

「ねぇ、島田さん。近藤さんは、隊のみなさんは息災ですか?千鶴ちゃんは、元気です?」

土方さんに言われたのだろう、島田さんが度々ここに顔を出す。ろくに薬も飲んでいないだろう、と言っては松本先生が処方した薬と石田散薬を持参してくる。

「あぁ、みんな元気ですよ。」

そう答えた島田さんの笑顔に翳りが見えたのを問いただそうと考えたが、気がつかないふりをした。彼の優しさなのだ。誰かに何かあったとして、もう自分ではなにも守れない。それは良かった、と笑うと島田さんは安心したように笑う。僕は言った。
「最近はとても調子が良いんです。思ったより総司の調子が良さそうだったと伝えてください。」






島田さんが帰った後、待っていたかのように咳が止まらなくなった。彼はきっと近藤さんや土方さんに報告をする。千鶴ちゃんもきっとそれを聞くだろう。あの人たちは優しいから、関係ないのに気に病むだろう。重荷には決してなりたくない。

もうすぐ僕は終わる。殺し合う事しか出来ない僕が、それすら出来ずに終わっていく。役立たずもいいところだ。
最後に脳裏に浮かぶのは、近藤さんや、まぁ、土方さんの姿だろうか。あの時のあの子の顔は思い出せるのだろうか。

(それも、直に分かる。)

まぶたを落として考える。意外と楽しい生涯だった気もする。ぼんやりと記憶を辿る。たどりつくあの子との会話。思い出せない表情。
あぁ、そうだ。

閉じたまぶたの隙間から涙が出た。

「僕はとんだ弱虫だったんだなぁ。」

僕はあの時、あの子の顔が見られなかったんだ。冗談のつもりの僕の言葉は、本当は僕の中では冗談にならなくて。あの子がどんな表情をするのかが怖くて見られなかったんだ。もし、嬉しそうな顔されたら、とか。そんなことあるはずもないのに。臆病者にもほどがある。

「好き、だったんだ」

彼女が。

今は元気だろうか。誰かに幸せにしてもらえたら良いな。あの子は誰を選ぶんだろう。きっと土方さんかな。あの人に取られるのは癪だけど、土方さんの傍なら安心だ。僕が健康だったら、選択肢の一つになり得ただろうか?

もうすぐ僕は死ぬよ。明日か、明後日か。僕のことなど忘れて構わないから。でも、どうか。
ずっと先にあるあなたの生命が終わる日にだけ、一瞬でも僕のことを思い出してほしい。
それで僕は幸せだ。

僕は最期に、花のようなあなたの笑顔を思い出すよ。







ーーー
続きがあったり。
完全な捏造ですよ。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -