ピンク色の二足歩行の猫が、私の膝を占拠してからどれくらい時間が過ぎたのだろうか。何気なく彼の部屋にあそびに来たのは良いが、ずっとこんな感じだ。私の膝を枕にして、規則正しい寝息を立てている。
(今は夜の時間帯ね。)
来た時は昼の時間帯で、それからどうだったかしら?
(さすがに、足が痺れてきたわ。)
思いきり立ち上がりでもすれば、容易にこの状況から打破できるだろう。しかしそうしないのは、この状況がきっと不愉快ではないから。
(やっぱり、アニマルセラピー?)
今この時点で癒されてるのかどうかは不明だが。猫か己の膝のうえで寝ていたら、本来それは莫大な癒し効果が期待できるはずだ。
「でもこの猫は違うわね。」
「何が違うって言うの、アリス。」
呟いた独り言に返事が返って来たから驚いた。膝の上の猫は、横向きだった頭を仰向けにして、私の顔をじっと見た。
嫌なところで目が覚めた。
「ねぇ、何が違うのさ。どこの猫と何を比べてるの?」
やっぱり。
「何も比べてないわよ。ただ、ボリスは他の猫より大きいなって思ってたの。」「他の猫って、どこの?どこの猫があんたの膝で寝たの?」
この嫉妬深い猫め。オスだろうがメスだろうが、お構いなしで怒りをみせる。猫に膝を貸すぐらい良いじゃない、と言いたいが、そんな事を言えば火に油を注ぐようなものだ。そこまで私も浅はかじゃない。
「どこの猫も寝てないわよ。ボリス、あなただけだわ。」
「ほんと?ダイナとかいう猫にも?」
少し疑いを含んだ猫の目は、私の両目を捉えた。私の可愛い飼い猫にまで悋気を抱くのもいかがなものだが。そもそも土台が違うのだ。なんど言っても、そのことに一切の理解を示さず常に堂々巡りで、私が負ける。
「本当よ、あんただけよ。」
心の中でため息をつきながら、彼の耳の付け根を撫でる。彼はくすぐったいのか、気持ちいいのか、身を少し捩らせて目を細めた。
「じゃあさ、何が違うんだよ。」
さっきの独り言をまだ覚えていたのか。こんどは分かるようにため息をついた。
「なに、それ!やっぱり、他所の猫とー」
「あんたが他の猫より、ううん、比べものにならないくらい格好良すぎると思ったのよ。」
目を丸くして私を見るのが分かった。私は視線から逃げるように、外を見た。
視界の隅で彼の両口の端が上がるのが見えた。もう一回言って!と言う声が聞こえたが無視をした。
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