毒のある笑い方をすると思う。そう思った相手は、どこからか干菓子を取り出すと、それを口に運んだ。
二人並んで座ったままで、私は一連の動作を見ていると相手の顔は、こちらに向いて止まった。
目が合う。

「何?千鶴ちゃん。さっきから僕のこと凝視して。」

そう言われてハッとした。自分は思っていた以上に凝視していたらしい。

「え、あ、あのっ!その、違うんです!」

べつにやましいことなどありはしないが、なんとなく慌ててしまう。顔はいつものように笑顔だが、やはり何か含みがある。

「ふぅん?僕に見惚れちゃった?」

「え!?あ、違います!」

「なぁにそれ、即答とか。傷つくなぁ。」

とても傷ついたようには思えない、意地悪な顔で笑う。そういう事じゃなくて!と良く分からない言い訳をしながら慌てふためく私を見て、彼はさらに目を細めて笑った。

「あぁ、干菓子が欲しかったの?あげるよ?」

可愛らしい小さな箱から、取り出したお菓子を私の口元に持ってくる。

「ほら、あーん。」

そう言われて思わず口を開くと、甘い香りと共に小さなお菓子が転がり込んだ。いい子だと幼子に聞かせるように言うと、彼もまた、二つ目のお菓子を口にいれた。

「見惚れていた、と言われたらそうかもしれないです。」

入った干菓子が口の中から消える頃、ポソリと呟いた言葉に彼の瞳が私を捉えたのが分かった。

「へぇ?」

興味ありげな声が斜め頭上から落ちてくる。顔を上げて見るとやはり目があった。あの笑みで。

「沖田さんの笑い方ってなんだか毒気があるなって、思うんです。そう思ったら目が離せなくて。」

「なーんか、それ。失礼じゃない?」

ちょっとだけ拗ねた返事が返ってきた。無邪気に笑ってるつもりなんだけど、とも。
あれを無邪気と言うには無理がある。そう思ったが、思うだけにした。

「なんて言いますか、なんだか何か企んでるような?だから余計に目が離せないんです、きっと。」

もう一度見た彼の顔は、何かを考えているようだった。それもつかの間、また毒のある笑みを見せた。

「企んでいる、ね。そうかもね。あ、でもそれなら、千鶴ちゃん。君の前だけじゃないかな、この毒のある笑みとやらは。」

「えぇ!?なんですか、それ!!私に対して何か企んでるんですか?」

思いがけない発言に立ち上がると、彼は、毒と呼ぶには相応しくない笑顔で笑っている。まるで面白いものを見つけた子どものように。

「まだ教えてあげないよ。千鶴ちゃん。」

そのまま彼も立ち上がり、私の頭を軽く撫でた。その手つきがなんとなく優しくて、彼を見ると、あげる、と言って私の手のひらに残った干菓子入りの箱をおいてその場を去った。

すれ違いざまに見せた笑顔は、そことなく儚げで、心臓の奥に不快感を残した。

(その笑顔だけは嫌いです。)






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