幸村と呼ぶ君の声が好きだ。俺の姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄ってくる姿がとても愛しいと思う。廊下で擦れ違うだけで、仁王は綺麗に笑った。だから俺も凄く嬉しくて、言葉で表現できないくらいの愛しさを込めていつも仁王の名前を呼ぶ。


「仁王」


学校に居る時は苗字で、二人で居る時は名前で。そんな二人で作ったルールも破りたくなるくらい、自分のものだと主張したくなる可愛い俺の恋人。彼の後姿を見つけて名前を呼ぶと、綺麗な銀髪が宙を舞い、黄金が俺を捕らえた。途端綻ぶ表情に、胸が締め付けられるような愛しさを感じて更に笑みを深くした。


「ゆきむら、」


そんなに距離があったわけでもないのに駆け寄ってくる姿。今すぐこの場で抱きしめてやりたかった。でも俺が抱きしめると本当に幸せそうに笑うから、そんな姿を他の奴等に見せるのはいただけない。駆け寄ってくる愛しい人。窓から差し込む日の光りが、一層彼を綺麗に演出した。


「どこ行ってたんだ」
「購買」


今日は買い弁なんよ、と彼は笑う。一挙一動が愛しくて、自然と笑みが零れてしまうのは仕方がないと思う。購買で昼飯を買うとき、仁王が一限早く買い行くのはいつものことだ。昼休みに買いに行くとあそこはもう戦場だし、人がごった返して買った後の疲労感と言ったらない。俺も何回か行ったことはあるけれど、できればもう経験したくはない。現在は三限目と四限目の間の休み時間。だから廊下を歩いていたのか、と納得。休み時間は教室で寝て過ごしている彼が廊下に居るのは、大体購買や用足しの時だけだからだ。


「次で昼休みだからな」
「うん」


こくりと嬉しそうに頷く。昼休みになったら存分に抱きしめよう。そう考えると、早く四限目が終わって欲しいと願わずにはいられなかった。腕に嵌めている時計が偶々視界に入る。腕を組んでいたから当たり前か。時間を確認すると、もう少しでチャイムがなる頃だ。まだそんなに話していないのに。心の中で落胆すると同時に、チャイムの大きな音が校内に響き渡った。


「…チャイム、鳴ったナリ」
「そうだね」


空気の読めない軽い一定音に、目の前に居た仁王も同じようにして落胆している。彼の場合、表情にそのままだしているけれど。次の授業を終えたらまた会えるだろ、と彼と自分に言い聞かせるように言って、仁王の頭を優しく撫でた。数回頭を撫でると、すっと嬉しそうに目を細めそうじゃな、と笑う。俺の前でしか見せない素直なその表情は、本当に愛しくて可愛らしいかった。


「そうだ、仁王」
「…?」
「購買、一緒に行くよ」


だから授業が終わったら、俺のクラスの前に居て。にこりと笑って言えば、仁王は一瞬驚いた表情の後、嬉しそうに頷いた。その表情だけで昼休みまでもう一時間は頑張れそう。仁王のクラスに教師が来たのと同時にお互いのクラスへ戻る。どうやらまだ俺のクラスには教師が来ていないようだ。携帯を開いて液晶を確認してみるとメールが一件。開いてみると、仁王からたった一文の内容。

『はよ授業終わるとええの』

何の装飾もないメール。でも、それでもすごく愛しいと感じる。結局のところ、仁王がやったことなら何でも嬉しいのだ。そうだねと返事を書いて、ついでに今の俺の近況を添えておく。送信ボタンを押して携帯を閉じると同時に、教師が教室へ入ってきた。教師が出欠確認を始めた同時に携帯が震える。机の影に隠れて内容を確認して、俺はにこりと笑みを浮かべた。

さて、もう一時間頑張りますか。


『そうだね。授業なんか早く終わって、雅治を抱きしめたいな』
『…ばか』



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