※社会人


例えば世界で二人だけになったとしても。この青い惑星から太陽という光が消えたとしても。最後の瞬間まで、俺は彼と一緒に居たいと思った。できることなら、死ぬときは彼を抱きしめて死にたい。その前に、愛していると囁いてからゆっくりと二人で眠りについて、死んでいきたいと思う。そうできばどれだけ幸せだろう。想像して、腕の中で眠る雅治くんの頭をゆっくりと撫でた。


「…んっ」


小さく聞こえた声に、起きてしまったのだろうかと手の動きを止める。しかし彼の長い睫毛が縁取る瞼が上がる様子はない。未だに深い眠りに囚われた彼は、俺の胸元へ擦り寄るように抱きついてくる。その姿はまるで猫のように愛らしく、昔と変わらず可愛らしかった。


「雅治くん、」


自分でも呆れるくらい甘ったるい声を出して、彼の名前を呼ぶ。社会人になってから落ち着いた色の、彼の髪をそっと撫でる。高校まで明るかった銀髪はもう見ることができない。でも、本来の髪の色である黒も彼に似合っているから俺は大好きだ。勿論彼に嫌いなところなんて一つもないんだけど。頭に置いていた手を彼の背中に回す。温かいぬくもりを感じると、それだけで気持ちがほっとした。


「……あ、かや」


呼ばれた名前にハッとして彼の顔を見てみると、未だに夢の中の雅治くん。顔を綻ばせながら俺の名前を呼んで、彼は今どんな夢を見ているのだろう。俺が夢に出てきているのだろうか。それなら、どれだけ嬉しいだろう。幸福に表情を緩ませた雅治くんの額へ、頬へ、愛しさを込めてキスの雨を降らせた。


「んっ…」
「雅治くん、」
「……あかや?」


唇へ口付けたと同時のタイミングで、彼は眠り姫のように目を覚ます。キスをして目を覚ますなんて、なんかロマンチックだ。ゆっくりと開かれた瞼の奥に見える、夜の暗闇に浮かぶ月を連想させる黄金。数回瞬きをして、雅治くんは眠そうに目を擦る。成人男性のくせに、そういう仕草をしても合ってしまうのが怖いくらいだ。俺の姿がすぐ近くにあると分かると、雅治くんは嬉しそうに笑い俺の体に抱きついてきた。


「はよう」
「おはよっす」


へらりとふやけた笑顔に俺の心臓はドキリと跳ねる。もう十年以上も恋人として一緒にいるのに、彼の行動は変わらずに俺の心を乱してきた。慣れることなんて、きっと一生ないだろう。中学の頃とは違い、ころころと表情を変えて心の中をさらけ出すようになった彼は、変わらずに愛しい存在だ。俺は彼の体を力いっぱいに抱きしめた。


「今日はどうするんじゃ?」
「んー…、雅治くんはどうしたい?」


久々に二人重なった休日。だからすごく嬉しくて、昨日は久々の触れ合いに興奮してお互いの体を貪りあった。触ることでどんどんと高まっていく快感。結局、気がつけば明け方近くまで情事を営んでいた。それなのに、彼はとても元気そうな表情をしている。昨日無茶をさせて激しくしてしまった気がしたのだが、彼はけろりとしていた。今日のこれからの計画を聞くと、自分と同じく何も考えていなかった彼からは曖昧な返事が返てくる。


「なんでもええ」
「なんでもはなしっ」
「…そういう赤也はないんか」
「俺はないっす」


きっぱりと言うと、雅治くんは呆れたようにため息を吐く。だって本当のことなのだから仕方がない。俺は、雅治くんが居ればそれでいいのだ。ぼんやりと今日の計画をたてているのであろう彼の腰に腕をさり気なくまわして、雅治くんと体が密着するように抱きしめた。


「…なら」


暫くして、ぽつりと零れた言葉に彼の顔を見る。決まったのかと問うてみると、雅治くんはこくりと頷いた。そして抱きしめる俺の体を抱き返すように背中へ腕が回されると、雅治くんはゆっくりとした口調で言う。


「もう少し、こうしてたい」


ぎゅうっと背中に回る腕に力が込められる。心の底から幸せそうな顔をして、そんなことを言う彼の笑顔を見ていると後のことなど後回しで良いかと思えた。どうせまだ時間はある。一緒に居たいとき。彼が甘えてくれるとき、一緒に居ればいい。ベッドの中で二人抱き合って、頬を撫でて、俺は目を細める彼を見る。そして口付けを求めるように閉じられた黄金を確かめてから、俺は彼に優しい口付けを贈った。



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