曲に込めている気持ちがある。遥華の曲の歌詞を書く。それだけで、自分の中にある想いをどう表現するかで悩む。いかに4分から5分という時間の中で表すか。爆発させるのかどうか。それが決まるのだ。曲を書くということは出来ないから、歌詞を書く。これだけは、誰にも譲るつもりはなかった。


「…んー、こうでもなか」


生きてきた22年という、人間の平均寿命の半分すらも生きていない自分。そんな自分が、色々な人の心に響く歌詞を書く。どうするか。普段からそれを考える。いざ浮かんだときのためにメモを持ち歩く。忘れたらいけないから。そんなことの繰り返し。


「あ、そうじゃ…」


基本的に曲を書いてくれるのは、プロデューサー兼作曲を担当してくれる財前光だ。高校生の時に作曲家としてデビューした彼は、少しだけ自分と近いものを感じる。早いうちに実力が認められ、天才と言われている彼の作る曲は本当に素晴らしいものだ。その彼の曲に合う様に、または彼が自分の歌詞にあった音楽を作ってくれる。今までヒットした曲のすべてを彼が手がけているから、財前と組む以外のことは少ない。そしてまた考える。今回は、どういう世界を描くか。


「雅治、お茶ここに置いとくで」
「おん。おーきに、謙也」


軽く言葉を交わす。音楽活動をし始めた高校の頃から、謙也はいつでもサポートしてくれていた。小学校からの長い付き合いになる、所謂幼馴染という関係。普段は気なんて遣わないけれど、俺が歌詞を考えている最中、謙也はこういう些細な気遣いをしてくれる。少しだけ離れた場所に置かれたお茶に、そっと手を伸ばした。まだ淹れたてだから、容器が熱い。


「謙也、お茶うまか」
「ほんま?そらよかったわー」
「最近お茶淹れるのうまなったね」


お茶だけではない。珈琲も、紅茶も、謙也に淹れさせたら天下一品だ。ほわほわっという気になって、あったかくて、優しい。まさしく謙也という人物を表したような味。飲み物を入れると本人が出る、とか聞いたことがあるけれど、確かにその通りかもしれない。


「おーきに」
「おん」


そしてまた俺は作業に戻る。謙也のお茶のおかげで、少しだけ頭がリフレッシュした。お互いに気を遣わなくていい存在だからこそ、居心地がいい。謙也はどうやら、持参してきた雑誌を読んでいるようだ。それも音楽雑誌。流石はマネージャーだ。チェックに抜かりがない。


「これ、ええかもしれん」


カリカリと、思いついた歌詞をメモに書いていく。次々と浮かんでくる歌詞。ああでもここがちょっと違う。僅かに手直しの斜線を引いてまた書き出す。カリカリ、ペンを走らせる音だけが聞こえた。既に俺の頭の中には歌詞だけしか存在しない。外の車の音も、何もかもが遮断された。


「…あ」


ふと右を見てみると、そこには謙也と自分の子供の頃の写真。そういえば最近、友情を歌った曲を書いていない。恋愛もの、という世間受けするものを書いていた。そこでまた歌詞が思い浮かぶ。昔のことを歌ったもの。これはいいかもしれない。俺は小さく笑みを零した。


「謙也!謙也!」
「おぉっ?どないしたん?」
「昔の話、したいんじゃが…ええ?」


そしたら昔からの幼馴染と話しをしようと考える。彼とはもう10年以上の付き合いになる大事な親友。だから話す。昔の思い出を語り合って、あったかい気分になって、その溢れんばかりの幸福を歌詞にするのだ。椅子から立ち上がって謙也の寝転ぶベッドに腰掛ければ、謙也も上体を起こす。そして笑顔を浮かべる。


「当たり前やん!ええよ、語ろう!」
「おん。あ、謙也さ――」


昔のことを語り合って、こんなことがあったな。あんなことがあったな。そういえばこんなこと。思い出して、改めて友情を再確認。そこであ、と思いつく。どうしてもいれたいな、と思った一文。これは親友という君に、必ず伝えたい言葉。今度の曲のコンセプトは、これで決まりだ。

(My friend, ありがとう 君が居たから――)



(2010.8.22.Poncho Shiramine)
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