痕A


 クラスで友人に心配された。それはいつも同じやつに、同じ理由で、俺の身体中に出来た無数の痣のことを聞いてくる。
青黒く変色し内出血を起こしていた打撲の後は見る者を不快にさせる。だからなるべく人には分からないようにしているのに、同じクラスに属する友人Aはいつも目聡く見つけてくるのだ。

 そいつは目を見開いた後、いつも盛大に眉を顰めた。それはまるで誰かに決められた行動のように、まったく同じで。

「お前、虐待でもされてんの」

 同じ言葉を繰り返す。だが違うと首を振ると、友人Aはそうかと一言を残して話題を変えた。
そうやって、こいつはまた他愛のない話を始め出す。

「あ、そういえば――」

 面倒くさそうに話し出したそいつの言葉を聞き流しながら、俺はぼんやりと窓の外を眺める。
学校から見える海の景色が、俺はなんとなく好きだった。いつか俺とブン太の二人を飲み込んでくれればいいのに。なんて、馬鹿みたいな事を考える要素になるのだ。

 少しだけ視線をずらして、左の方へと目を向ける。そこに、特徴的で見慣れた炎のような赤が視界の隅に映った。
 どうしてここに。どきりと心臓が跳ね上がる。少しずつ速くなる心拍数に比例するように、俺の背中を冷たい汗が流れていく。

「ブ、…っ」

 驚きのあまり廊下を振り帰った。居るとは思わなかった人物の登場に、酷く動揺する。
視線を動かしてその人物を探してみるとやはり、そこにはブン太が立っていた。

 冷え切った視線が俺を容赦なく貫く。薄く開いた唇から、今にも氷のような言葉が飛び出てきそうで、頭の中が真っ白になった。

「あ……、」

 ゆっくりと、ブン太の唇が形を変える。一文字一文字を丁寧に表現するブン太が、よほど苛立っているのだと俺に教えていた。

 まるで、金縛りにでも遭っているかのように動けない。すべての見えない刃を投げ終えたブン太が、最後に見せた薄い笑み。
廊下の奥に消えた姿を見送って漸く、俺は身体から力が抜けて机に突っ伏した。

 放課後に待ち受けて居るであろう、相手の怒りと悲しみを含んだ表情を想像して俺はゆっくりと目を閉じた。



(20120215)
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