※丸井が病んでます 恋人から付けられた痕と言えば大体はキスマークなどを連想するだろう。俺も、普通ならばそれくらいのことは考える。 しかし俺の身体にはそんな想像とはほど遠い、甘酸っぱくて少し恥ずかしいような痕は存在しない。 変わりに俺の身体に刻まれているのは、殴られたり噛まれたりした痛々しい鬱血痕や打撲痕だ。 「雅治、綺麗だ」 「ブン…」 俺の恋人は所謂精神異常者というやつに分類される。人によって症状は色々のようだが、こいつの場合それはすべて暴力だった。怒ったときも泣いたときも、愛情表現すらも。だからまともなセックスなんてしたことがなかった。 どうしてブン太がそうなったのかはわからない。付き合った頃には既にぼろぼろで、暴力を振るうそれが当たり前だったから。 だけど俺はいくら殴られてもブン太のことが大好きで、嫌いになんかなれなかった。付き合っていくうち、いつしかこいつには俺しかいないんだ、と思うほどに俺もブン太に依存していたのだ。 「俺には、お前だけだから。だから、お前にも俺だけだろう?」 「ブン、太…」 「なあ、そうだろぃ」 ブン太の手が俺の首へと伸びてきて、首を両手で覆うように指の一本一本が絡み付いてくる。次第にブン太の綺麗な指が食い込んできて、ああこれは痕が残るな、と意味もなくそんな考えた。 「そ、じゃ…俺は、おまんだけの…、ブン太、の、もんじゃ」 「ああ、当たり前だよな」 膝が俺の鳩尾に入れられ、胃の中の物が逆流しそうになる。だけど床を汚したらまずいからどうにかしてそれを堪えた。 狂気と、哀しみと、愉悦と。色々な不安定の要素が入り交じった瞳に見つめられて何とも言えない切ない気持ちになる。 徐々に視界がぼやけてくることから脳や肺に酸素不足してきたことが分かる。息苦しさは更に酷くなり頭が痛くなってきた。 「雅治、雅治」 「ブ、ン太…」 愛おしげに呼んでくれる俺の名前も、酸欠でぼやけた頭の中ではなかなかクリアに再生されない。それを残念に思いながら、俺は次に続くであろう言葉を待った。 「アイシテル」 その言葉は毒よりも強く俺の身体を蝕んで、麻薬よりも質の悪い魔法の言葉。 (ホントの精神異常者は、さて、どっちだろう?) (20111114) |