愛って奴はとても厄介だと目を閉じた


 仁王の目は綺麗だね。幸村は頬へと手を添えながらうっとりと笑った。幸村は仁王の満月のような黄金の瞳が綺麗だという。
その幾度となく繰り返された言葉に、仁王は隠すこともせず眉を顰める。もう聞き飽きたと言わんばかりに仁王はため息を吐いた。

「仁王の目、すごくきれい」

 恍惚とした表情で褒める行為も、「仁王」ではなくある特定の部分でしかない。最初の頃は嬉しかった自身の目への称賛の言葉も、今では不快でしかなかった。
 頬へ添えられた手を払いのけて幸村からそっぽを向くが、残念そうな短い声が聞こえたのに手は懲りずに追いかけてきた。

「なんじゃ、お前さん、」

「仁王、もっと目を見せて」

「嫌じゃ」

 払った手のぶつかり合う音が響く。驚いたような表情をした幸村の顔に、仁王は自分の中の苛立ちが増していくのがわかった。

「お前は、」

 俺の目だけが好きなんか。
言おうとして、仁王は言葉を呑み込んだ。なんて女々しいことを言おうとしているのかと仁王は数秒前の自分に呆れた。

「なあに、仁王」

「やっぱ…なんもない」

「そんなわけないだろう」

 幸村の言動に踊らされている。そう思うだけでどうしようもない不快感を覚えて仕方がない。
 くすくすと愉快そうに笑う声。けれど、それでも、どうしても嫌いになれないのはやはり幸村のことが好きだからか。

「どうせ、俺がお前の目しか褒めないから拗ねてるんだろう?」

「なっ…、違う!」

「ふーん」

 図星を突かれて否定の声を上げてみても、全部お見通しだよと笑っている幸村に敗北感。
なんでこいつはこんなにも余裕なんだ、同い年のくせに。
 そっぽを向いた仁王を幸村はあやすように抱きしめると耳元へ唇を寄せふっと息を吹きかける。予想していなかった甘い刺激に、仁王は堪らずに目を閉じた。

「大丈夫だよ。仁王のことは髪の毛一本から爪の一枚まで、全部愛してるから」

 仁王の顎に掛けられた手が優雅な所作で顔を持ち上げる。うっすらと開けた視線の先で、幸村が笑っているのが見える。

幸村。
名前の次に続くはずだった言葉は、すべて幸村の口の中へと吸い込まれていった。



(20111111)
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