自覚した想い

愛なんてものに興味がない。だからなんだよ、そんな気分になって結局は人間の本能に従うことすら自然と抗っている。馬鹿馬鹿しい。愛なんて所詮戯れ言、一言で吐き捨てられるくらい丸井には大したものではなかった。

(それなのに、さ…)

少し前までの自分ならば絶対に考えられない。まさか、この丸井ブン太が人を異常なまでに気にするだなんて。それも、どこの王道少女漫画だよ、なきっかけで気になり始めたのだから丸井は笑う気分にもならない。まるで恋でもしたような、そんな錯覚を抱いてしまうくらいで。

(恋とか愛とか、すんげぇくだらないもんでしかなかったんだろぃ)

自問自答をして己を確認。己の汚点とも言えるであろう現在という時を、いっそのこと笑えてしまったら自分はどれだけ楽だったか。しかしプライドが人一倍高い丸井には今の気持ちを抱いているだけでも、今まで否定し続けたことを認めている行為に思えて仕方がない。

(マジ、あり得ねぇ)

はあっとため息を吐いても現状が変わるわけがない。チッと自分にしか聞こえない程度の音を鳴らすと、想像以上に状況は悪化したようだ。舌打ちをしても何も変わりはしない。寧ろ、気分が悪かった。それは勿論精神的な意味で。

(一種の、一時の気の迷いってやつでありゃいいのに)

そうすれば、今の自分を来年辺りには笑ってやれる。それなのに気を緩ませると思い出してしまうのだ。あの、美しく光りを反射し煌めく銀に、鋭く印象的な黄金を。

(あー…、くそっ)

あまりにも不本意で、不快で、負の気持ちにしか傾かない。これが恋なのか、人へ好意を抱いたことのない丸井には解らない。けれど前にクラスの女子に少しだけ読ませて貰った少女漫画では、今の丸井のような感情は抱いていなかった筈だ。心臓がどきどきして、好きな人のことを想うと胸が締め付けられ気分が高揚する、とかなんとか。だがこれは、そんな甘ったるい、丸井が好まない感情とはほど遠いような気がする。それなのに、あの人物が脳内をちらつくのはどういうことなのか。

(嫌いだから、脳みそん中をちらつく…とか?)

それなら自分の脳内はどんなものだ。結局何度目かの葛藤の末、丸井は考えることを放棄した。元々、考えるのはあまり得意な方ではない。

(まあどうせクラスには来ねぇだろ、あいつサボり魔らしいし)

頭の中をちらつく銀が教室へ現れることは殆ど無いに等しい。机に伏せて、今の感情を払拭するために寝る体制に入る。どうせ一限目は大した授業ではなかった。すぐに寝れそうだと安易して瞼を閉じるが、がらりと開かれた教室の扉の音と共に教室内が一気に静まりかえる。なんだ、とさすがに不審に思い頭を上げると、そこには今一番丸井が見たくなかった人物が立っていた。

「…なんじゃ、見んな」

ぴしゃりと言い放たれた言葉にクラスの視線が一気にその人物から逸らされる。しかし何故か丸井だけはその人物から目を逸らせず、まるで金縛りにでもあったかのように動けない。視線だけが派手な銀を追う。

「……なん、」
「あ、いや」

そして幸か不幸か、その人物は丸井のすぐ後ろの席だった。最近まったく姿を見せなかったのですっかり忘れていたが。

(…最悪だろぃ)

冷たい視線で丸井のことも睨むその男。特徴的な銀に、鋭い目、そして一番は猫のように光る黄金の瞳。普通なら先ほどの態度に腹を立ててもいいくらいなのに、丸井の心臓は五月蠅いくらいにどきどきと動悸を早くしていた。これじゃあまるで少女漫画のヒロインみたいな気持ちではないか。考えただけでも丸井の頭の中は不快感で埋め尽くされ、どんどんと気分は降下していく。

(嘘だろ、ふざけんじゃねえぞ)

だがそんな丸井の気分に反するように、心臓はどんどん早く脈を打つ。五月蠅い心臓があるであろう場所を抑え、机に伏せる。よりにもよって、あんな無愛想なやつにこんな風になるなんて最悪だ。がたんと椅子を音が聞こえる。そんな行動にも一々反応する自分に苛立ちは募るばかりで、丸井は周りに聞こえない程度に再び舌打ちをした。



(20110407)
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