生きる価値すらない。 生きていく理由もない。 どうして自分はこの場にいるのか、仁王は沈む夕焼けを眺めながらぼんやりと考えた。 夕日に問い掛けてみようか。しかしやめだ。その行為事態が滑稽でしかない。 隣で気持ちよさそうに眠る丸井に一瞬だけ、視線を合わせてみる。すよすよと気持ちよさそうにするその姿は年相応に愛らしく、いとおしかった。 「なあ、丸井」 静かに名前を呼んでみる。 当たり前だが、返事はない。 しかしそれすらも愛しかった。 仁王は笑みをこぼしす。ただ自然とこぼれたそれは、一体何に対してのだったのか。 無意識に行われた行為に、頭での理由を付けるのは難しい。 「好いとうよ、」 生きる理由がない。 そして価値もない。 何度も同じ事を繰り返し繰り返し考え、渦巻いて、そして思考という波に溺れていく。 それはまるで同じように繰り返される輪廻のようだと思った。 いっそそのまま溺死してしまえばいい。思考の波に攫われてしまえばいいのに。 己の生きる理由を隣に、仁王はぼんやりと思った。 「俺ん生きる理由は、きっと丸井なんやね」 自分は今彼の隣に居る。 それは紛れもない事実であり、定められたものだと仁王は思っていた。 同じ年に生まれ、クラスと部活が同じになり、理由もなく気があって。1世紀もないだろう人一人分の生命という時間を共有することが増えていく。 そうしていくうち、互いに対して好きという感情を抱くのも、そう遅くはなかった。 依存するように彼に惹かれているのは恐らく、自分の方であろう。仁王は考える。 しかし、だからといって仁王は肉体的な依存も束縛も嫌いだ。お互いに自由な方がいいに決まっているのだから。 貴方を何処までも愛する。 貴方にどこまでもお供しよう。 それが唯一、自分にある生きる理由と価値だというのならば。 「好いとうよ、」 だからこの命が尽きるまで、私は貴方の傍で生きていく。 (20110704) |