「せんぱい、」 不意に呼ばれたことに振り返ると、その視線の先では赤也が泣いていた。どうしたのか、と仁王は首を傾げる。そして同時に抱いたのは疑問で、どうして赤也が泣いているのかということだった。 「赤也、どうしたん」 「せんぱい、せんぱい、」 壊れた機械のように何度も自分のことを呼んでくる赤也を、不思議に思わないわけがない。数歩離れた先にいる赤也の方へ歩いていくと、赤也も同じように歩を進める。 「…赤也?」 「せんぱい、おれ」 見開かれた目、涙を沢山流したのか少し腫れぼったくなっている。カタカタと身体を震わせる赤也へ手を伸ばすと、突然、その手を強い力で捕まれた。 「あか、」 「死にそうだよ」 切なくなるような声。身体と同じように震える音に、仁王は何を言えばいいのか解らなくなる。腕を引っ張られ赤也の後をついていくと、使われていない空き教室へと連れて行かれた。 「赤也っ」 何をされるのか状況と雰囲気で察したのか、仁王は切実に声を出す。しかしそれは赤也の耳へは届いていないのか、扉を開けて教室の中へと放り込まれた。倒れ込んだ衝撃で打った肩に眉をしかめる。仁王が起きあがってこないのを確認して、赤也はそのまま仁王の身体へと跨った。 「待っ、赤也 」 「せんぱい、」 無理矢理脱がされたシャツは無惨にも左右へ引きちぎられ、ボタンは四方へ飛んでいく。這わされた冷たい手に、仁王の心には恐怖が生まれた。耳元で低く囁かれると、それだけで仁王の身体は硬直する。 せめて、なんでこんなことをするのか。何があったのかだけでも聞かせて欲しい。 早く脈打つ心臓が脳味噌内も木霊し、仁王の中へ焦燥感を生んだ。 「におうせんぱい、頼むから、何も聞かず俺に抱かれて」 切実に言われた言葉に、仁王は言葉を失う。そんなことを言われて、聞けるわけがない。最後の抵抗とばかりに開いた唇は、赤也のそれに塞がれた。 (20110127) |