抱きしめたい!(赤仁期間)


彼のことを見ていると、時々無性に抱きしめたくなるときがある。ふとした時に起こる現象だから、なんでかなんて理由はわからない。愛しいから、と言ってしまえばそれで終わりだけど、それを含めた他の何かがあるような気がした。


「におー先輩っ!」
「っわ」


例えば、彼の後ろ姿を見ているときとか、他愛もない会話をしているときとか。今みたいに、何をするわけでもなく二人でまったりした時間を過ごしているときも。俺の隣に座って雑誌を読んでいる彼を抱きしめたくなったりする。だからこの場合、俺はいつも本能のままに彼を抱きしめた。


「雑誌面白いっすか?」
「ん。それなりにな」


一瞬だけ向けられた黄金は、しかしすぐに雑誌へと戻ってしまった。折角抱きついたのに、反応がなくてなんとなく面白くない。


「ねぇ仁王先輩」
「んー?」


名前を呼んでみても、返ってくるのは生返事。なんとなく雑誌に彼を取られたような気がして、少しだけむくれた。たかが雑誌に嫉妬なんて餓鬼みたいだけど、彼が好きなんだから仕方がない。


「雅治くん」
「っ…」


耳元に唇を近づけて囁くように彼の名前を呼ぶと、真っ赤になった顔で彼は振り返る。動揺している彼は俺だけが見れる特権だ。僅かな優越感に浸りながら、俺は仁王先輩の身体を更に強く抱きしめる。


「……なんじゃ」
「いや、なんとなく呼んだだけで」


じとりと睨んでくる彼に俺は笑って返す。すると仁王先輩はため息を吐いて、小さな声で何かを呟いた。


「…突然、名前で呼ぶな」


恥ずかしそうに俯いた彼に、思わず胸がきゅんとする。拗ねたように言うのは彼なりの照れ隠し。こういうふとした時の彼の本心が、本当に本当に嬉しかったりする。彼はそれを知らないだろうけど、俺はそれでも構わなくて。可愛い彼へ、俺は満面の笑顔で大好きと言った。



(2011.1.15.Poncho Shiramine)
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