むしゃむしゃ、

※カニバリ


むしゃむしゃがりがりぐちゃぐちゃごりごりばりばりむしゃむしゃ。
目の前でひたすらに口を動かして、無表情に俺を見つめてくる男は財前光だ。ロボットのように淡々と口を動かし、何かを食べている。それが美味しいのかどうかも彼の表情からは読みとることはできない。ひたすらに無言。絡み合う視線と、何かを食べる音だけが響く。


「光、何、食べてるん」


ほんの些細な疑問を聞くだけなのに、どうしてか体が震えた。それに連動するように声も震えた。単語ずつを分けるように区切られた言葉に、財前は口元だけを歪ませて笑う。


「なんやと思います?」


問いかける言葉に、俺は首を傾げた。わからない、そんなこと。知るわけがない。首を横に振ると、財前は更に口元の歪みを強くした。よく見てみれば、財前の口元にはべったりと赤いものが付着している。思考が、視覚が衰えていたのかと思えるくらい、大量に付着して光りを反射する赤に気づかなかった。


「ざいぜん、口元が」
「赤いやろ」


拭うこともせずに、口元にはそのまま赤。不意に財前の腕が上がり、俺の左肩を指さす。そしてまるで星でも描くようにして右へ、下へと動いていく指先。それを視線だけで追うと、体に突如激痛が走る。でも突如というにはその痛みが体に馴染みすぎていて、俺は視線をおろして自分の体を見下ろした。


「…謙也さん、美味しかったっすわ。せやから、もっと、」


そして見下ろして驚愕した。真っ赤に染まっている自分の身体。腕が、足が、本来あるべき場所に存在していなかった。目を見開いて、嗚呼痛みの原因はこれだったのかと脳味噌はやけに冷静に物事を理解する。そして、先程まで財前が何を食べていたのかも理解することができた。


「最後まで謙也さんを、俺にちょうだい?」


伸ばされた財前の手が、俺の眼前に迫る。視界が黒に埋め尽くされて、先程言われた言葉を最後に何かが潰れるグロテスクな音が聞こえた。それを思考の片隅に聞いて、俺は意識を闇の中へと手放した。



(2010.12.14.Poncho Shiramine)
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