「さなだ、」 愛しさの籠もった声で呼ばれ、真田はその声の主を振り返る。相変わらずな銀髪は風に遊ばせ、本人は笑顔を浮かべていた。 「どうした」 「どうもせん。けど、ただ名前を呼びたかったんじゃ」 あかんかった、と少し表情を曇らせながら言った仁王は本当に悲しそうで、真田は咄嗟にそんなことはないと否定する。すると仁王の表情は一変し、綻ばせたような笑顔を浮かべ真田に抱きついた。 「真田はあったかいのう」 「仁王も十分あったかいぞ」 自分の頭より少し下にある銀糸を撫でながら、真田も笑みを浮かべる。真田自身、実のところ仁王の銀髪が好きであった。脱色した筈なのにさらさらした髪。基本的に脱色し過ぎた髪は傷んでパサパサになるなんてことの方が多いが、仁王の髪は通常の髪の毛よりも手触りがいい。一房掴んでみると、手からするりと髪が落ちていく。 「さなだ」 「なんだ?」 「だいすき」 ぎゅっと抱きつく腕の力は弱めず、顔を上げた仁王は何度も大好きだと繰り返した。そんな仁王を、真田は愛しく思う。恋をするということが意外と心地よいことだと思うようになったのは、仁王と付き合い始めてからのことだ。同じように好きだと囁けば、仁王はこれでもかというくらいの笑みを浮かべる。 「真田、だいすき」 「ああ。俺もだ」 「めっちゃすき」 キラキラと銀糸が光を反射して、仁王だけを神秘的に輝かせる。この笑顔が絶えなければいい。いつも自分に笑いかけてくれればいい。そんなことを考えながら、真田は仁王を抱きしめる腕に力を込めてもう一度好きだと囁いた。 (2010.11.11.Poncho Shiramine) |