「雨が降ってきたね」 幸村が言うままに視線を窓の外へと移してみれば、確かに、そこへは無数の雨粒が落ちていた。肌寒いのはその所為か。俺は感じた寒気にぶるりと身体を震わせる。 「寒いのか?」 「ん、少し」 学校でセックスに至るという、なんとも不健康極まりない行為を終えた後。未だに一糸纏わずな状態の俺に幸村はくすりと笑う。ちゃっかり自分だけ服を着ている幸村が、ゆっくりとした優しい動作で俺の身体を抱きしめた。 「…幸村?」 「俺があっためてあげるよ」 全身で俺の身体を温めるように密着して、仁王冷たいね、なんて笑いながら言った。元々低体温なんよ。少しばかりの返事で俺も同じように笑う。 「仁王は可愛いな」 「幸村は綺麗じゃな」 もぞもぞと幸村の肩口に顔を埋めてすんっと鼻を慣らせば、制服や彼自身から漂う甘い花のような香り。幸村の匂いだ、と安心する。優しい仕草で髪を撫でる幸村の手に、俺は猫のように目を細めて甘受した。 「俺は綺麗じゃないよ」 「どこが」 「全部」 俺の言葉にさらりととんでも発言をした幸村に疑問の眼差しと共に首を傾げる。すると彼はきれいにふわりと笑って、俺へ口付けた。 「幸村はきれいじゃろ」 「仁王の方が綺麗だよ」 「幸村の方がきれいじゃ」 延々と続きそうなやりとりを先に終わらせたのは幸村だった。身体が浮遊感に襲われる。背中には冷たい床。身体に被さる幸村の体温。そこまで揃って、解らないほど自分も馬鹿ではない。 「…またヤるんか」 「仁王は、嫌?」 「嫌ではなか」 寧ろ幸村とのセックスは大好きだ。温かいし、優しいし。何より、この場に彼が居るのだということを肌で感じられる。しかし先ほどまで激しい情交を強いられていた身としては、足腰が立たなくなるのではという不安もある。そんな俺の不安を読みとったかのように、幸村はまたきれいに笑って言った。 「仁王は綺麗だね」 発しようとした言葉は、結局彼の唇に奪われた。綺麗というのは幸村のような人物のことを言うだろう。何度も綺麗だと言う彼を、俺はまたきれいだと思った。 (2010.10.27.Poncho Shiramine) |