現状維持


何がどうせどうやったって、現状が変わることはないのだと白石蔵ノ介は理解していた。親友という好位置を手放したくない。しかし、それ以上になりたいとも思う。もやもやとする想いに葛藤して、白石はここ暫く機嫌が悪かった。


「しーらーいーしー」
「なんや」
「めっちゃ不細工な顔になってんで、自分」


からからと笑いながら、白石の悩みの種である忍足謙也は前の座席に腰を下ろす。白石の机の上で手を組み、その上に自然な動作で顎を乗せた。自然と上目遣いになる体制に、白石の心臓は文字通りどきりと跳ねる。


「…誰のせいやと思とんねん」
「へ?」
「いや、こっちのハナシ」


聞こえないように喋ったつもりだったが、地獄耳な謙也には少しばかり聞こえていたらしい。小さく首を傾げて不思議そうにする。そんな仕草が可愛いと思う中、白石はそんな自分の考えに苦笑した。


「白石、悩み事か?」
「そう見える?」
「えっほんまなん!?」


冗談で言ったのに。驚いた顔をした数秒後、謙也はまた笑う。今度は本当に大声で。クラスに居た奴らが何事がと二人に好奇の視線を向ける。


「なんで笑うねん」
「やって、白石悩み事とかなさそうやん」


それはどういう意味だ。悩み事なんて沢山あるというのに。それを言うなら目の前の謙也こそ、金髪な所為も相まって悩みがなさそうに見えた。


「謙也くーん。自分、俺のことなんやと思ってんねや」
「やって聖書やん」


悩みに聖書とか関係ないやろ。確かに素晴らしいくらいの基本を探求してはいるけどな。って、そうじゃなくって。白石は再び思考を戻しため息を吐いた。


「……まぁ、謙也くんには一生わからん悩みやな」
「白石…それどういう意味やねんっ」


ムスッと眉をハの字にした謙也を、白石はまた可愛いなと思う。だが白石蔵ノ介のこの想いが一生成就することはないだろう、と白石は思った。理由は簡単。忍足謙也には恋人が居たから。


「謙也さん」


噂をすればなんとやら。凜とした、ここ最近聞き慣れた声が入り口から聞こえ、謙也の名前を呼ぶ。財前光。謙也の恋人。目の前に居た謙也が、その声に嬉しそうに笑みを浮かべ、廊下へと続く扉をみた。

嗚呼、負けたな。白石は思う。
謙也が恋人の元に駆け寄るまで、あと少し。



(2010.9.24.Poncho Shiramine)
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