汗を掻いている彼がカッコイイ。そういえばゆっくりと、彼を見たことがなかった。仁王はコートの上で動き回るブン太を見て思う。ボールを打ち返す。そんなラリーの繰り返しはずっと見ていると飽きてしまう。大きく口を開けて欠伸をすれば、隣にいた柳生が苦笑したのが分かった。 「仁王君。大胆にも欠伸などしないでくださいよ」 「無理。眠いんじゃもん」 「我慢してください」 生真面目すぎる紳士の言葉。だが今の仁王にはそれは右から左へと流れていくだけ。言葉を無視した大きな欠伸をすれば、隣にいた柳生はもう何も言わない。それならそれで好都合だ、と仁王は視線を再びコートへと戻した。いまだにラリーが続いていて、思わず感心する。 「丸井の相手しとるん、確か二年じゃろ?」 「そうですね」 「結構やるな」 「そうですね」 同じ言葉が返って来る。でも結局またどうでもいいかと考える。そんな変わらない会話に仁王はまた飽きた、と欠伸をした。口を閉じる寸前で先ほどブン太が動いていたコートの方から拍手の音が聞こえてくる。きっと試合が終わったのだ。重かったはずの腰がいつの間にか軽くなっていて、近くに置いてあったドリンクとタオルを片手にブン太へと近づく。 「ブン太、お疲れさん」 「おう。流石に、二人相手じゃ疲れるぜぃ」 「二対一やからな。まぁ、当たり前じゃ」 どうせテニスが好きな彼のことだ。楽しんで試合をしていたら長引いただけだろう。言わないけれど心の中で思うだけ。労いの言葉を掛けながらドリンクとタオルを渡す。そして仁王は汗を拭くブン太を見て思った。こいつは本当にカッコイイな、と。気がついたら笑みを零していたらしく、ブン太は訝しげな顔をしていた。どんな顔を見てもカッコよく見えてしまうあたり重症だな、と仁王はブン太の腕を取る。 「何、どうした?寂しかったかよぃ?」 「うん。その通りじゃ」 「…え?にお――」 珍しく素直な反応にブン太は目を見開く。そんなブン太を見ながら、仁王はくすくすと笑みを零す。そして何かを言う前に、と仁王はブン太の口を封じた。自分からキスをするのは久しぶりだな、と思いながらゆっくりと唇を離した。 「……仁王、お前さ」 「おん」 「…欲求不満?」 数秒の口付けの後、ブン太の口から放たれた的外れな答えに笑う。当たらずとも遠からず、という答えに仁王は答えた。突然のレギュラー部員のキスシーンに静まり返ったコート。だが当の本人達はその場の雰囲気を気にするでもない。少しして我に返った部員達の目には、次にブン太が仁王の手を引っ張ってどこかに行こうとしている光景が目に入った。 「あ、俺たちこれからランニングしてくるから。幸村くんと真田にはそう言っておいてくれぃ」 「よろしく頼んだぜよ」 唖然としたその場をあとにして暫く。幸村たちが帰ってきてから練習をしていない部員達を見て、幸村と真田が怒ったのはもう少し後の話。 (2010.8.15.Poncho Shiramine) |