俺たち二人がどろどろに溶けてしまえれば良いのに。そしてあわよくば一緒に溶け合って、後には個体になって、一つになれればいいのにな、と思う。そんなことは無理なのだと解っているつもりでも、子孫すら残すことのできない俺たちの関係だから、そう思わずにはいられなかった。 「跡部くん」 「あ、なんだよ?」 「暑いねー」 「は?どこがだよ?」 跡部くんの部屋で二人きり。たったそれだけの事なのに癒されて、ほわほわとあったかい気持ちになる。声を掛けたから難しい文字の並んだ本に落としていた視線が俺の方へと向けられて、嬉しくて跡部くんに暑いね、と再び言えば彼は綺麗に眉をひそめた。 「…暑さのあまりとうとう頭が沸いたか、千石」 「酷いなぁ跡部くん!だって本当に暑いんだもんっ。跡部くんは暑くないの?」 「別に。空調利いてるし涼しいじゃねぇか」 うんまぁそうなんだけどさ。心の中で軽く同意しながら、俺は跡部くんの元へと寄って行って、向き合う形になる椅子に腰掛ける。すると彼はきょとんとして首を傾げるから、それが妙にかわいらしかった。 「俺さ、跡部くんと居ると心が凄く熱くなるんだ。そりゃもう灼熱地獄みたいに」 「……意味わかんねえぞ」 「要するにさ、キミと居ると俺の心臓はドクドクッて早くなって、それで熱くなるんだよ」 心も体も、両方とも。そう彼に言えばほんのりと頬を赤くして、跡部くんは俯いた。徐々に赤くなってくる耳を見ていると、跡部くんは何を思ったのか俺の手を突然掴んで自分の胸元へと押し当てる。すると今度は俺が驚く番で、どうしたのと首を傾げた。 「…俺なんて、いつも緊張しっぱなしなんだよ」 「え?」 「お前と会う度、話す度、何をするときだって俺はいつも緊張してんだよ」 ふいっと顔を横に逸らした彼の顔はこれでもかってくらいに真っ赤で、俺は一気にふわふわとした幸福感に包まれる。普段クールで俺様だからそれは尚更で(それでも俺の前でだと凄く笑ってくれるけど)、さっき無理に引っ張られたせいで崩れていた体制を器用に直して、跡部くんに抱きついた。 「せ、せんごく…ッ!」 「……うん。跡部くんも熱いね、すっごーく」 「てめぇのせいだろ…」 「うん――ねぇ、跡部くん」 肩口に顔を埋めれば彼のつけている香水の匂いがして、俺の心は更にドロドロに溶かされる。嗚呼本当に、このまま溶け合えてしまえればいいのに、と不可能なことのはずの事が何故か可能なことのように感じた。 「いっそこのままさ、俺たち、ドロドロに溶け合えちゃえばいいのにね」 (2010.7.24.Poncho Shiramine) |