ブン太くんの恋人



俺、丸井ブン太は今をときめく天才的な腕前をもつボレイヤーだ。自分で言うのもなんだが、女の子にはモテるし、お菓子とか貰う結構な人気者だったりする。だがそんな俺にも勿論、愛して止まない恋人様が居るわけで、今回はそんな恋人のお話だ。


「…なんじゃ、ブンちゃん」
「ん?気にすんな」
「や、無理じゃろ」


ちなみにその人物の名前は仁王雅治と言って、可愛い可愛い俺の恋人。抱きつけば頬をほんのり赤らめるという可愛い反応をしたり(でも傍から見たら普段と変わらないらしい)、勿論愛の営みは惜しまない(ちなみに俺が男役)、その他エトセトラエトセトラ。要するに、俺の可愛い恋人仁王雅治は滅茶苦茶可愛いと言いたいのである。


「…練習せな」
「別にいいだろぃ」
「幸村くんに怒られるぜよ」


なんてどうでもよさげに言う姿すらも俺には可愛くって仕方がない。ちなみに現在、コートのそばでふらふらしていた仁王に俺が抱きついているという状態だ。部内でも公認のラブラブカップルである俺たちのこんな行動は既に周知の事実。だから俺は愛する愛する雅治へ惜しみなく愛を送るんだけど、最近になって俺には重大な悩みがあった。


「仁王くん」
「柳生」
「……出たな」
「はい?」


その理由は今俺と仁王の前に立っている男、柳生である。仁王とダブルスパートナーである柳生は、最近よく仁王とツルんでいた。勿論、それが常勝である立海に必要な人選であるのはわかっている(実際に俺もジャッカルとパートナーだし)、つもりだ。


「練習に行きますよ」
「…おう」
「ちょ、仁王っ!」


でも仁王が他の野郎と歩いてるってだけで俺はイライラする。今までにも可愛いなって子と付き合っていたことはあるが、こんな風に執着するようなことはなかった。そんなに嫉妬深くないと思ってたのに、仁王を愛してからは俺は自分が知らなかった一面に直面することが多くなった気がする。


「――っ雅治!」
「…っ!な、なんじゃっ」


練習はちゃんとしないとダメってことはわかってるし、俺だってそろそろ練習しないとやばい。でももう少しだけ一緒に居たくて、基本的に情事中しか呼ばない雅治って名前で俺は彼に声を掛けていた。


「突然、名前で呼ぶんじゃなかよ」
「だってそうじゃねぇと、雅治行っちまうじゃねぇか」


俺の我が儘ってことはわかってるんだけど、再び名前で呼べば彼はこれでもかってくらい顔を真っ赤にして口元を手で覆っていた。あ、やばいかわいい。


「…柳生、悪い…練習はもうちょっと後でもええかのう?」
「……仕方ありませんね、丸井くんの練習が始まるまでですよ」
「ん、サンキュ」


俺の場所からでも聞こえてくる会話の内容を聞きながら、俺は心の中でガッツポーズをとった。そして俺の方を向きながらお辞儀をした柳生を見ながら、俺は実は柳生でいい奴なんじゃないかと思っていたのだ。


「…ブンちゃん」
「なんだよぃ」
「……いきなり名前で呼ぶのは反則ぜよ…」


再び顔を赤くしながらそんな可愛いことを言ってきた仁王に、そりゃもうにやけるわけで。仁王を抱きしめて今度は耳元で甘く彼の名前を囁いてやれば、ぴくりと体を跳ねさせて仁王は俺の背中に腕を回したのだった。


「ちょーかわいい!」
「…嬉しくないぜよ」
「さすがは俺の雅治だぜぃ、もう殺人的にかわいすぎ!」


多分こんな言動が仁王を溺愛しているっていう要因なんだろうな、なんて思いながら俺は彼の頬へキスをした。するとまた顔を赤くするもんだから、なんだかこのまま襲いたい衝動に駆られる。ぎゅうぎゅうと彼を抱きしめていると、そんな俺の違和感に気がついたのか、仁王は小さな声で指摘してきた。


「…ブンちゃん」
「なんだよ雅治」
「っ…当たっとる」


何が、なんて俺の事だから聞かなくてもわかるわけで、俺の前でだけ年相応の表情を見せる仁王を力一杯に抱きしめた。


「雅治」
「…なんじゃ」
「俺ヤりたくなっちまったわ」
「……だから?」
「抱かせろ」


一言求愛の言葉を言えば、仁王は予想していましたとでも言うように口元をヒクつかせた。そんな仁王を見てにやりと笑顔を浮かべれば、彼は体を反転させて逃亡を謀ろうとしたのだ。


「…どこへいくつもりだよ、仁王」
「や、ちょっとトイレへ…」
「トイレプレイ?いいぜぃ、雅治がそれを望むなら」
「ち、ちがうわ!」


聞く耳なんてもうどっかへ捨ててきた俺は、抗議の声を上げる仁王を無視して部室に備え付けられているトイレへと向かって行く。その現場を色んな奴らに見られたけど、見せつけてやれって感じで俺はトイレに行く途中のコートで大声で叫んだ。


「仁王雅治は、俺のもんだぜぃ!」


そんな俺の言葉を聞いた仁王は後ろで口を金魚みたいにパクパクさせながら、俺の後ろを着いてきていた。その後、予告通りにいっぱいいっぱい愛し合った俺たちに、真田の鉄拳が待っていたのは言うまでもないだろう。



(20100508)
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