一番最初の印象は派手な人。そんでもって、凄く人懐っこくってお節介で、でも優しい人ってこと。そしてよく恥ずかしそうにはにかむ、ということ。けれど俺はそんな彼が最初苦手で、どちらかといえば関わりたくはないタイプの人間だった。 しかし月日が流れて。一緒に居る機会が増えて。ダブルス組むようになって。側に居るのが心地よくなった。 今では隣にいるのが当たり前。そんなふうになるだなんて想像していなかっただろう当初の自分。今の自分を見たら、果たしてどう思うのだろうか。聞けるものならば、是非とも聞いてみたいものだ。 「謙也さんって」 「お?」 「めっちゃ派手でお節介な人やんな」 「……は」 今日は久しぶりに謙也さんを誘って、二人で午後の授業をサボった。俺のクラスも謙也さんのクラスも午後は自習になってたから、それなら一緒にサボりませんかと俺が彼を誘ったのだ。まぁ時々あること。そうしたら二つ返事でええよって言ってくれたから、久しぶりの二人だけの時間が流れる。うん、それが凄く心地よい。俺が音楽を聴く横でうとうとし始めた謙也さんに、なんとなく思い出した彼に対しての第一印象を言えば、間抜け面が更に間抜けになってぽかんと口を開けていた。 「…っちゅうんが、俺の謙也さんに対する最初の印象やったんですわ」 「……はぁ、さよか。それよか財前、それ褒めてへんやろ」 「まぁ、そっすね」 「おい!!」 ムッと眉を顰めた彼が可愛いな、なんて思う。月日が流れていくたびに、日に日にその思いは強くなっていく。このまま、この時間が続いていけばいいのに、なんて叶いっこないことを思いながら彼の金髪に手を伸ばしてみた。脱色して傷んでいるはずの髪の毛は意外とサラサラしていて、ちゃんと手入れの行き届いているさわり心地が気持ちいい。 「謙也さんの髪って意外とサラサラなんやね」 「ってオイ、話逸らすなやコラ」 「うっさいで」 「……すみません」 感情を込めない声で黙らせると、彼はそれが不服だったようでぶつぶつ不満を唱える声が聞こえる。でも、それすらも愛しいっていうんだから、本当にこれはどういうことか。愛しさにふわふわ包まれているような感覚に陥りながらフッと笑えば、謙也さんは頬をほんのりと赤くして視線を伏せた。嗚呼もう、ほんまに可愛すぎる。 「謙也さん」 「…今度はなんやねん…」 「ほんまに、かわええ」 全部が全部可愛らしい。最初は苦手だと思っていたその髪も、性格も、表情も、今では何もかもが愛しい。生憎と自分は可愛らしい人間ではないというのは自覚しているので、彼にどう思われているかはわからないのだけれど。謙也さんも俺に対して愛しいなとか、そう言った感情を抱いてるとええな、と思った。 「唐、突に、なんやねん…ッ」 「あ、顔真っ赤」 「うっさいわ!」 指摘をすれば更に顔を真っ赤にさせて俺の言葉に食いついてくるもんだから、本当に可愛くて仕方がない。ぎゅっと抱き寄せて彼の肩に顔を埋めれば、謙也さんは一瞬だけ体をピクリと揺らしてから俺の背中に腕を回した。初夏の季節に抱きつくのは少し熱いけれど、これも愛の温度だと思えば、少しも嫌とは感じない。 あ、俺めっちゃ寒いこと言うたな。 「謙也さん、顔見せて?」 「なん……ッん」 少しだけ体を放して彼の顔を見ていると、桃色の彼の唇にキスがしたくなって。物凄く、したくなって。本能に任せて不意打ちで、男のくせに意外と柔らかい彼の唇に口付ければ更に顔を真っ赤にさせる。いったいどれくらい赤くなるのだろうか、と試してみたくもなったが、それはまあ、また今度にしよう。ちゅっと触れるだけの可愛らしいキスをすれば、謙也さんはぎゅっと俺の体に抱きついてきた。 「…不意打ちは卑怯や」 「やって、キスしたくなったんやもん」 「もん、やないわ!」 いつまで経っても慣れないキスの後の初々しさが可愛らしくて仕方がない。恋の力というのは確かに人を変えるらしいが、何に対して無頓着だった俺をここまで執着させた彼は本当にすごい人だと思う。 もう手放せない存在。まさしくそれだ。 永遠に一緒に居られればいいのにな、と思いながら抱きついてくる謙也さんの体を力いっぱいに抱きしめた。 「……ざ、財前…」 「なんです?」 「も、もっかい…」 「もっかい、なんです?」 「ッ…も、もっかい、ちゅぅ…してや…」 視線を泳がせながら少しだけ顔を上げて、そんな可愛いことを言う人に俺は更にメロメロになった(あ、こら死語か)。というか今時キスをちゅぅとか言う中学生がどこに居るか。それ以前に最近のマセ餓鬼が言うかすらも怪しいところだ。でもそこか純粋な謙也さんらしいところで、可愛いところ。愛しくて愛しくて、俺はぎゅっと彼の体を抱きしめると無意識のうちに笑っていたのか彼から抗議の声が上がった。 「な…ッい、今笑ったやろ?!」 「笑ってへんすわ。ただめっちゃかわええなぁ…と」 「か、可愛くなんかないわボケ!」 顔を真っ赤にさせながら睨みつけても、全然迫力なんてあらへん。むしろ愛しさがどんどん込み上げてくる。しかしその口がよぉボケなんて言いましたね、とニヤリと今度は違う笑みを浮かべれば、俺の雰囲気を察したのか微妙な表情を浮かべた謙也さんへ、お望みどおりのちゅぅをしてやった。ただし彼が好きな触れるだけのやつじゃなくって、勿論ディープな深いやつを。 「んふ、ぅ…んんっ…ふぁ…」 「謙也さん、顔めっちゃエローイ」 「棒読みで、言う……ッ!」 無駄口を叩いてる暇があるならまずキスをすることにする。もう一回唇を塞いで、彼の口内に舌を差し込んで味わうことにした。初々しい彼はそんな俺の行動にビックリして舌を引っ込ませるけれど、そうはさせまいと無理矢理熱い舌を絡めとると、くぐもった甘い声が聞こえてくる。それが俺の心を上手く甘くするもんだから、唇を離したのは謙也さんが俺の胸板をどんどんと叩いて苦しさを訴えてきたころだった。 「ふはッ…は、はぁ…」 「そんな水から上がったような呼吸の仕方せんといて下さい、萎えるやん」 「萎えるって何が、ってちょ…倒すな!!」 キラキラと金髪が反射する。純粋な瞳が俺の顔を捉える。そんな僅かなことすらも、すべてが幸せであると思える。顔を真っ赤にさせてジタバタ俺の下で暴れる謙也さんをとりあえず押さえ付けて、おでこにちゅっと触れるだけのキスをすれば、ぴたりと彼の動きは止まった。 「…ちゅうか、なんやねん…」 「なにがです?」 「今日の財前、優しいんか無茶苦茶なんかわからん…」 「それは謙也さんへの愛故っすわ」 「え、これが!?」 耐え切れず、早々にワイシャツの前のボタンを開ければ、彼は俺の手際の良さにビックリして顔を真っ赤にさせた。それこそもう今更なのに。何度体を重ねたと思っているのか。普通に戻ったり赤くなったりと忙しい人である、と思うがまぁそれすらも愛しいからどうでもいいのか。 そういえば最初に何を考えていたのだっけ、と考えてみる。しかし何も思い出すものがないから、まぁどうでもいいかと目の前の愛しい人へ、愛を惜しみなく注ぐことにした。 「謙也さん、愛してます」 「…ッ、お…俺も…やで」 「おん。知ってました」 はにかんで、幸せそうに笑うから。きっと自分はその笑顔に恋をした。 (20100627) |