「仁王の馬鹿野郎!!」 「……は?」 突然、俺の大好きなブンちゃんがそんなことを言って来た。ちなみに、今俺たち二人がいるのは3年B組の教室。大声でそう叫んだブンちゃんの声に、クラスメートの視線が一気に彼へと向いた。 「…俺、なんかしたかのう」 「した!覚えてねぇのかよ!」 「覚えとらんぜよ」 「さいってー!!」 頬を膨らませながらそう叫んだブンちゃんは、どこの女子校生だと思うけど、そこらにいる女子よりも彼のほうが断然可愛い。自分に媚びへつらってくる女子なんてもうただの塊だ。だがそれとコレとは話は別で、果たして自分は彼に怒られるようなことをしただろうかと俺は頭を悩ませた。 「…ブンちゃん」 「なんだよ!」 「ほんまに覚えとらんわ」 「うわっなんだよそれ。マジに雅治君さいてー!」 ふんっ、と大げさに視線を逸らしたブン太が、本当に訳が分からない。ちょっぴり雅治って名前で呼ばれたのに情事を思い出してときめいてしまったが、何かした覚えなんてない俺には彼の行動はさっぱりだ。うんうんと頭を捻って色々考えてみて、つい最近自分がやった行動を振り返ってみる。 「……あっ」 「なんだ、思い出したか!」 「もしかして、ついこの間冷蔵庫に入っていたプリンかのう」 「そうそうそれだ!!」 ビシィッと人を指差すブン太の手を下ろしながら、彼が怒りそうなことをやっと思いだした。ついこの間、俺の家にブン太が泊まりにきた時のこと。好きな洋菓子店の新作だとか言って、彼はプリン持参してきたのだ。三つでワンセットというプリンをとりあえず俺とブン太で一つずつ食べて、残りの一個は後でブン太が食べるとか言って冷蔵庫にしまってあった。でも食べた後、なんだかんだとやっている内にブン太が溜まっていたらしく発情してベッドイン。目が覚めたらプリンが残っていたので、俺が食べたというのが真相だ。 「やっぱりお前が食ったのか!!」 「すまん。冷たいもんが食べたかったんじゃ」 「そんなの言い訳になるかぃ!!」 そう言われても、俺にどうしろと。もう食べてしまったもんは返せるわけがない。というか、そう言うならばさっさと食べておけばいいものを、どうしてあの時は食べなかったのか。部類のお菓子好きの彼ならば、後で残さずさっさと食べていただろうに。俺は呆れながらぎゃーぎゃーと喚くブン太を見ながら、買ってきたジュースを一口飲んだ。 「というか、俺のせいだけじゃなかろう」 「いや、食べたのはお前だろぃ」 「あんまりにもイトナミが激しいブンちゃんが悪い」 実際それほど食べ物に執着はしない性質なので、彼がここまでプリンに執着するのは些か不可解だ。好きなものを他人にとられて怒るのも分かるが、ある意味自業自得だとも思うわけで。夕方から深夜まで攻められて、腰が痛くなるまでになった自分の身にもなって欲しいものだ、と思った。 「し、しかたねぇだろぃ!止めらんねぇんだから!」 「じゃあ食べた俺にも非はなか」 「それとこれとは話が違う!」 一向に決着がつきそうにない会話に、俺は小さくため息を吐いた。まぁ確かに、彼が食べるんだと楽しみにしていたのは覚えていたし、わざと食べたのも事実。でもその後に激しくブン太が自分を抱いたのも事実。ここは自分が折れるか、と口を開こうとしたとき、それよりも先にブン太が俺の腕を掴むほうが先だった。 「よし、仁王。責任取れ」 「…は?」 「今日は午後の授業を俺たちはサボる。んで、責任取ってもらう」 にやり、と笑った彼はどうやら本気のようで、俺は逃がしてはもらえなさそうだ。別に授業にちゃんと出るほど真面目な人間ではないのでそれは構わないのだけど、何をするのか、なんて目に見えているわけで。今はそんな気分でもない俺は、逃げ腰になりながらブン太へと一言抵抗の言葉を吐いた。 「や、俺勉強ちゃんとしないとだめなんで」 「いきなり標準語かよ」 「今度プリン買ってくるきに、それでええじゃろ」 「駄目。あのプリンは期間限定品でもう売ってねぇの」 それはもう、なんたることか。それじゃあもう買いに行くなんて口実は通じるはずもなく、ブン太の顔を目の前に俺は言葉を失った。コート上の詐欺師やらなんやら言われているけど、彼の前だとそんなのはどっかへ吹っ飛んでいく。まだ食べかけのパンに手を伸ばそうとすれば、俺のその腕を掴んだブン太がニッコリと笑っていた。 「責任、取ってくれるだろぃ?雅治」 結局甘く呼ばれた自分の名前と、ブン太のカッコよさに負けて、俺は屋上で授業が終わるまでブン太に愛されたのだった。 (20100429) |