どろどろ液体酸素



先輩が大好きで大好きで。それはもう、言葉じゃ表しきれないくらい。大好きだと言って、愛してると言って、ありったけの愛の言葉を囁いてみる。すると先輩は一瞬だけきょとんとして首を傾げ、ほんのりと頬を染めながら綺麗に笑った。そんな一連の動作に見とれてしまうのはいつものこと。手を伸ばして、テニスをしている手とは思えないくらい綺麗な指に触れる。


「先輩は、俺のこと好きっすか?」
「当たり前じゃろ」


目線を合わせながら、額同士をこつんと合わせる。至近距離で見る仁王先輩の顔は、やっぱりいつ見ても綺麗だ。長い睫毛に、綺麗な宝石を思わせるような黄金の瞳。そして思わずキスをしたくなるような形のいい唇。毎日見ているはずなのに、俺の心臓は飽きずにどくどくと血の流れを早くする。


「赤也んこと、愛しとうよ」
「知ってますよ」


当たり前じゃないですか、という意味を込めて不敵に笑う。いついかなるときでも一緒で、側に居て。笑いあって、愛し合って、それが当たり前で。こんな存在が側にある、というそれだけで、俺は常に心地の良い感覚に包まれている。甘い雰囲気たっぷりなのに、これで嫌いとか言われたら流石に俺はへこむだろう(それだけで済めばいいけどさ)。


「赤也」
「なんすか?」


絡めた指に力を込めて、絡めた指を更に密着させる。指の先からくっ付いて、一緒になってしまえればいいのにな。できない事だとわかっていても、それでも望まずにはいられない。そんなことになれば、きっと俺は最高に幸せだろう。これでもかってくらいに力を込めてみる。すると仁王先輩はクスクスと笑いながら言った。


「指、痛いぜよ」
「あ…すんません」


少しだけ力を緩めて手を離そうとすれば、それと同時くらいに仁王先輩が俺に抱きついてきた。突然のことに目をパチクリさせていると、仁王先輩の笑い声が耳元で聞こえる。クスクスと抑えた、綺麗な笑い方に俺の心は更に脈を早くした。


「このまま、くっついとる部分から溶け合えたらええのう」
「ッ…そ、っすね」


同じことを思っていたんだ、ということに感動を覚える。些細なことでも、俺は常に幸せを感じていた。それは勿論、仁王雅治という一個人に対してだけの限定だけれど。少しだけ癖のある銀髪に鼻を埋めると、彼特有の甘い匂いが鼻腔を擽る。


「…仁王先輩」
「ん?」
「すんげぇ甘い匂い、するっすね」


すんっと鼻を鳴らして息を吸い込む。本当にこのまま、一緒になってしまえればいいのに。この甘い匂いと、銀と、金と。大した証も残せないからこそ、そんなことを考えてしまう自分がいる。仁王先輩。名前を呼べば、彼はゆっくりと顔を上げて俺の顔を見た。


「…どげんした?」
「愛してるっす」


他の誰よりも、何よりも。切原赤也は仁王雅治を愛しています。残せない部分を言葉と体で補って、一生居られます様に。並べられるだけの言葉を並べて、所謂愛を囁いて。ポーカーフェイスの彼の表情が、またほんのりと赤く染まる。


「あかや――」


自分の名前の後に続く言葉を、キスで飲み込んだ。唇の形を見れば、わかるんですよ。次にあなたが何を言おうとしたのかなんて。頭を抑えて更に口付けを深くすれば、仁王先輩の腕が俺の首へ回る。それはもっとという合図で、俺は薄く開いた唇から舌を差し込み、先輩の口内を思う存分に味わった。


「んっ…、ふ…」


酸素を奪うくらい、内臓だって奪うくらいの口付けを。いっそ一緒に融解してしまえばなんの問題も発生しないと思った。唇を離すと、酸素を一生懸命に吸う仁王先輩。視線が合って笑い合えば、俺達はまた酸素を奪い合うほどのキスをした。




(20101018)
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