ぬくもり分けます



冬なのに不安定な気温。突然の温度変化に、仁王は毎日眉を顰めた。寒いなら寒いままでいろ、というのが仁王の言い分である。勿論、自然界にはそんな訴えは利かないのはわかっているけれど、それでも言わずにはいられなかった。ふぅっと息を吐いてみると、白く色づく自分の吐息。本当に冬なんだな、と仁王は両手を温めるように擦り合わせた。


「…ブン太、」
「んー」


なんとなく名前を呼ぶと、丸井もなんとなくな返事を返してくる。隣を歩く男も、例に漏れず寒そうに身を縮込ませていた。マフラーで鼻の辺りまでを覆い、コートをきっちりと着込んでいる。しかしこれで雪なんか降れば、この男はコートなんか脱ぎ捨ててはしゃいでいそうだけれど、なんて思う。ぼんやりとそんなこを考えていると、不意にぞわりとした寒気が背筋を掛けぬけ、小さくくしゃみがでた。


「なんだよ、風邪か?」
「いや、違うと思う…」


別に風邪気味というわけではないが、なんとなく寒い。これも一種の生理現象の一つである。仁王が鼻を啜ると、また身体がぶるりと震えた。本当に寒いのは苦手だ。元々南の方で育った仁王には、毎年経験していてもこの寒さは天敵だった。仁王は冬の気候を怨みながら、マフラーを鼻の辺りまで押し上げる。


「んなに寒ぃか」
「…おん」


学校まであとどれくらいだったか。仁王は考えながら、ポケットに手を入れて強く握り締める。こんなことならカイロでも持って来ればよかった。今更ながら、家を出る前の自分が憎い。再び肩を震わせながら小さくくしゃみをすれば、突然首元へぐるぐると何かが巻きつけられて、首元の温かさが増した。


「…ブン、これ…」
「それも着けてろぃ」


それがなんなのか、気がつくのに数秒。丸井のマフラーが、仁王の首元に掛けられていた。ほのかに香る丸井の甘い匂いに、増した温かさ。しかし自分は温かいけれど、これでは丸井が寒くなってしまう。返そうと巻かれたマフラーに手をかければ、その手を丸井が掴んだ。


「ブン太が風邪引いたらどうするんじゃっ」
「俺はいいの。これがあるし」
「これ…?」


下ろされた手を強く握られて、漸くその意味を理解する。少しずつ熱くなっていく頬に、仁王は二重に巻かれたマフラーの中に鼻先を埋めた。握られた手はそのまま丸井のポケットの中へ入れられて、先ほどまで冷たかった手が嘘のように温かく感じられる。元々丸井の方が体温は高い方だから、冷えていた手が芯まで温かくなっていくのがわかった。


「雅治の手はつっめてぇなー」
「…ブン太が、あったかすぎるだけじゃなか」
「んなこたねぇって」


笑う丸井の手を、今度は仁王から握り返した。どうせポケットの中だし、どんな繋ぎ方をしても誰もわからない。指一本一本を温めるように手を絡めれば、今度は丸井が驚いた表情をする。そして仁王を見てみると、その顔はこれでもかというくらいに真っ赤になっていた。


「雅治、顔赤い」
「…寒いんじゃ」


照れ隠しをする仁王を丸井は可愛いやつ、と笑う。そんな丸井を見て、仁王はまた頬を熱くした。当たり前のように分け与えられた熱を、仁王は薄っすらと目を細めて感じる。このまま学校まで着かなければいいのに。先ほどまでの考えとはまったく逆の考えに自分自身で苦笑しながら、仁王はマフラーの暖かさと丸井のぬくもりにさっきよりも熱い息を吐き出した。息は、先ほどよりも白く色づいている。



(20101223)
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