「仁王雅治。貴方は丸井ブン太に一生の愛を誓いますか?」 「すまんブン太。意味分からん」 「意味わかんねぇってなんだよぃ。俺は超真剣なんだ!さあ愛を誓ってくれ!!」 「丸井、見苦しいよ」 「ほんとっすよね。見苦しいっす」 状況を説明しよう。ここには今常勝立海大附属中学のテニス部のレギュラー陣(ここだけで説明が長すぎる)が屋上に勢ぞろいしていた。ちなみに時間帯的には四限目が平和的に終わった後の昼休みなので問題はない。それよりも問題なのはそう、何故か俺、仁王雅治を中心にして話が進んでいるところにある。 「赤也てめぇえ!!」 「ヒィッ!な、なんで俺だけなんすか!?部長、部長は!?」 「うるせぇわかめ!まず幸村くんより先にお前を葬ってやる!」 「そんな先に言ったのはぶちょ――ギャァアア!!」 あ、赤也の断末魔が聞こえたな。そんな我間接にどうにか過ごそうと試みるが、目の前にいる俺の恋人こと丸井ブン太はそれを許してはくれなさそうだ。赤也を彼流に葬ったらしいブン太は凄い形相で俺のことを見たかと思うと、パンを持っていた手をガシッという効果音が付きそうな勢いで握ってきたのだ。ちらりとブン太の下に視線を下ろしてみると、そこには伸びた状態の赤也が踏まれていて、なんともかわいそうだなと思い心の中で手を合わせた。 「頼む仁王、愛を誓ってくれ!!」 「丸井君。見苦しいですよ」 「うっせぇ偽紳士野郎!陰で俺の仁王を狙ってるくせにっ」 「君に仁王君はたいへん勿体無いと思いますが」 ぴきり、と目の前にいるブン太の額に青筋が立った気がした。あまりにも凄い形相過ぎて若干顔が引き攣ったが、ブン太自身は気にしている様子もないので、まぁ流しておくことにする。それよりもブン太の下に下敷きにされている赤也がちょっぴり(結構?)可哀想に思えてきた。そろそろ退いてやらないと本当にあの世に行ってしまいそうだ。でもだからと言って現在ご乱心中の恋人を止める術もないので、俺は結局その現場を見守っているしかなかった。 「何なんだよお前ら!いいか、仁王雅治と付き合ってんのは俺なんだよ!横から茶々いれてんじゃねぇよ!!」 「略奪愛っていうのも良いと思うけどな。最近流行ってるじゃないか」 「幸村くんは黙ってろぃ!しかも略奪愛とか流行ってないからっ!!」 幸村に反抗したブン太を、幸村が笑顔のまま圧力をかける。するとブン太の表情は若干、というか結構引き攣った。出来れば俺に被害が回ってこないのを祈りたい。だからと言ってブン太がいなくなるのは嫌だけれど。そういえば最初にブン太が自分に訴えていたことはなんだっただろうか、と思い出そうとしてやめた。どうせその後なにも言ってこないから、別にいいのかと気にしないことにする(俺って酷い恋人だろうか)。 「あ、パンがのうなった」 「まだ食べるのか、仁王」 「まだお腹空いとるんやもん。柳ご飯持っとらん?」 「生憎だが、もう食べ終わってしまったな」 それは残念だ。落胆したことを隠すわけでもなく、俺はため息をつく。するとそれを目ざとく見つけたブン太と幸村と柳生と、いつの間に復活したのか分からない赤也が俺の方を見ていた。こんな風に野郎四人に凄い真顔で見られると迫力がある。結構怖いかもしれない。そんな他人事のように思いながら視線を逸らした。 「それなら仁王、何か購買で買ってきてあげようか?」 「え?あ、いやそれはい――」 「そんなこと言わないでくださいって、仁王先輩!何でも言ってください、買ってくるっす!!」 「いや、やからそんな…」 「黙れお前ら!仁王の彼氏は俺なんだから俺が買ってくるんだぁ!!」 俺の言葉を無視してどんどん進行していく話を、俺はもう他人事のように鑑賞する。隣では柳が可笑しそうにノートに記入しているし、その隣では真田が小さくたるんどると言っている。ジャッカルなんてもう胃を抑えている始末だ。先ほど買ってきた珈琲牛乳をズルズルと飲みながら、空になったパンの袋を見る。 「ほんなら、お言葉に甘えて」 「仁王君は何が食べたいのですか?」 「…あー、そうじゃな」 「柳生てめぇ、何紳士気取ってんだ!」 お腹もまだ空いているわけだから、この際もう頼むことにしよう。実際屋上から購買に行くのも面倒なわけだし、今はきっと争奪戦という名の戦場と化しているだろう。それにコンビニも少し歩かないとないわけだし。先ほど食べたパン以外で食べたいものがあるかな、と考えていると、ふと思い浮かんだものは日本独特のスタンダードなパン。あれが食べたい、と考えるともうそれだけが頭の中を支配した。 「…あんパン」 「あんパンだな!?よし、分かったぜぃ!」 「待っていてね仁王。俺が今すぐ買ってきてやるよ」 「俺美味いあんパン売ってるとこ知ってるんすよ!待っててください!!」 「私が華麗に仁王君の所望したものを買ってきますよ」 思い思いに言葉を言ってから、光の速さよりも早いんじゃないかってくらいの速さで屋上を飛び出した面々を見て、俺はくぁっと大きく欠伸をした。一体誰が一番最初に買ってくるのだろうか。できれば恋人のブン太が嬉しいな、と思いながら俺はごろんと屋上の床に寝転ぶ。空は晴天。しかも夏だから暑い。ふふっと笑みを零して再び欠伸をすれば、隣に座っていた柳が鞄の中から何やらごそごそと取り出して、それを俺の眼前に掲げた。 「そういえば、あんぱんならば持っていたな」 「……参謀、謀ったんか?」 「何の話だ?」 「蓮ニ、後が怖いぞ」 「構わないさ」 真田の言葉にさらっと返事をしながらいらないのか、と相変わらずな笑みを浮かべながらパンを差し出してくる柳を見ながら、俺は彼だけは敵に回さないようにしようと思った。我ながら一番良い案だな、と思いながら渡されたパンを紙袋から取り出してみると、そこには最近流行のお店のパンが入っていて、嬉しさから声が出る。食べてみるとやっぱり、程よい餡の甘みと柔らかい生地が口の中に広がった。 「柳」 「ん?」 「おいしか」 「それはよかった」 にこりと笑みを浮かべながら笑いあった俺たちを見て、目の前に座っていたジャッカルが胃を擦っていたのは、まぁ見なかったことにしよう。とりあえず、あんぱんを買ってくるだろうことを予想して、俺はそれらをどうするかと考えた。そして今も、空は綺麗に晴天だ。 題名提供はマイフレンズより。 (20100806) |