俺の元へ堕ちて来い



俺のところまで堕ちてきて。待ってるから。だから、はやく、俺のところへ堕ちておいで。愛しい愛しい可愛い子。


「仁王先輩」
「なんじゃ?」
「俺、先輩のこと滅茶苦茶好きです」


純粋な力強い眼差しでそう訴えてくる年下の恋人の言葉に、俺はにこりと笑みを浮かべた(嗚呼、可愛い)。すると彼もにっこりと微笑んで、俺の体をぎゅっと抱きしめる。暖かな体温、まだ情交後の熱が残る体にはそのぬくもりにすらも反応して、俺はくすぐったさからぴくりと身を震わせた。


「そんなん、知っとるよ」
「大好きです。愛してるんすよ」
「赤也」


僅かに掠れた声で彼の名前を呼べば、俺の体を抱きしめていた腕に少しだけ力が篭ったのが分かった。そんな彼の反応が楽しくて視線を合わせて見つめれば、赤也は俺の頭を自分の方へと抱き寄せてキスをする。最初は触れるだけの口付けが徐々に深いものへと変わっていき、侵入してきた舌が俺の口内を好き勝手に荒らした。


「ふ、ぅ…んっ…」
「仁王先輩」
「な、んじゃ…」
「先輩も俺のこと、好きっすよね?」


自分を好きであることが当たり前だという口ぶりでそう聞いてくる赤也に、思わず笑みが零れて赤也の頬へと手を伸ばした。常に自信満々である彼は、俺に対して気持ちの確認をする際にもこんな感じ。好かれているという絶対的な自信の上に成り立つその言葉を、その声で、俺の名前を呼ぶ様は実に可愛らしい。でもそこで、あえて好きだといわないのが俺だった。突き落とすように笑みを浮かべて、赤也の自信たっぷりな目を見て俺は他人に妖艶と言われる笑みを浮かべて感情を込めない声色で言ったのだ。


「別に、好きじゃなか」
「……嘘つかないでくださいよ」
「ほんまじゃ、俺は別に好きでも嫌いでもないぜよ」


そう彼へと告げれば、先ほどまでの自信たっぷりという表情は消えうせて怒りという色が露になる。まだまだ若い彼は、付き合うようになってから尚更分かったことだが、感情を隠すということを知らない。だから好きなときに、好きなようにする。キスしたいと彼が思ったときには唐突に口付けられ、彼が俺を抱きたいと思えば突然セックスが始まるように。でもそんな彼が狂うほど大好きな自分にとって、自分のことで一喜一憂している様子が酷く心地よかったりする。なんという歪んだ愛情なんだろう、と自分でもよく思うことはあるが赤也が愛しくて可愛すぎるのが悪いのだと俺は誰に言うでもなく言い訳染みたことを言っていた。


「センパイも、俺が好きっしょ?」
「さぁ、わからん」
「先輩ってさ…普段は誰にも表情読ませないけど、俺の前だと素が出るよね」
「そんなことないと思うがな」


あさっての方向に視線を向けて、あえて赤也の方を見ないようにしていれば彼は俺の肩を掴んでベッドへと沈ませる。ギシッというスプリングの軋む音が聞こえて、先ほどまでの情事を思い出して変に興奮してしまった。このまま犯されるのだろうか、と怒りを滲ませた彼の瞳を見ながら思っていれば、赤也は俺の唇へと口付ける。さっきとは違う荒っぽいキスに追い上げられて息を乱せば、口内を赤也の舌が好き勝手に蹂躙して犯していく。ドクリ、とそれだけで腰に甘い疼きを覚えてしまうあたり、自分はもう末期なのかもしれないと思った(いや、きっとそうなんだろう)。


「ふ…、ぅ…んっう…ッ」
「先輩も、好きなんでしょ?素直じゃないっすよね」
「そんなことなか」
「嘘はだめっすよ、雅治さん」

ここぞとばかりに名前で俺の名前を呼んだ赤也に、これはもう心臓がどきどきと脈打ってきゅんとときめいた。情事中にしか言わない下の名前(俺が普段は名前で呼ばないように言ってるんだけれど)を、彼は何度も口にして俺の体を撫で始める。それにぞわぞわとした快感が背中を走って、俺は小さく甘さを含んだ声を洩らす。するとそれを聞いた赤也は調子に乗って俺の体を撫でる手の動きを早くした。


「ぁ、は…っ赤也…ッ」
「雅治さん。俺のこと、好きでしょ?」
「…今更、聞かんでもわかるじゃろっ」
「わかんないっす。俺馬鹿だから」


クスクスと耳元で笑う彼の笑い声は酷く心地がよくて、ゾクゾクとした。日に日に強くなる赤也の独占欲という、傍から見たら歪で狂気的な愛が俺は何よりも嬉しいと感じる。もっと俺を愛して。もっと俺に溺れて。そして俺だけしか見えないように。狂った感情を先に抱いたのは、きっと自分だから。赤い印が残る体へ再び赤也は唇を落としながら、俺の胸元辺りを撫でる手をどうにか掴んで俺は赤也の顔を覗き込んだ。


「ッアンタ、滅茶苦茶エロイ顔してる」
「赤也も、な…っ!」
「雅治さんほどじゃないっすよ」


ニヤリと笑った笑顔につられて俺も笑えば、彼は俺の唇へと口付けて性急な愛撫を俺の体へと施す。それが嬉しくて気持ちよくて、喉を鳴らしてそれに答えれば赤也は嬉しそうに笑うもんだから、もう、俺は彼を放せないと思った。だからもっともっと堕ちておいで。怖くないから、もっと俺に溺れて。俺の元まで堕ちて、そして一緒に二人の世界で暮らそうじゃないか。そして俺だけしか見えないように、俺以外を愛せないように、俺が居ないと壊れちゃうように、もっともっと俺を愛してよ。


「…あ、かや…っ」
「なんすか?」
「……愛しとる」
「ッ…当たり前じゃないっすか」


愛しい愛しい俺の赤也。さあもっと、俺を求めて。楽園という名の俺の元へ、堕ちておいで。



(20100524)
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