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冬の日光は清潔だと思う。いや、不潔な日光なんて知らないのだけれど、冬のそれはとりわけ清くあたたかく感じる。

清潔すぎて、ときおり、三日前にはばしばし雨が降っていたことなんて忘れてしまいそうになる。つまり俺の第一志望校の入試の日だ。三日も前のことだから地面も建物もとっくに乾いているし、寒さこそ残れ、あのひりひりと濡れる冷たさはもうどこにも感じられない。

そんな、三日前とは様相の違う街を歩いていた。駅の西口を出てすぐ右折、そこから信号二つ分直進、三つめで右に曲がればキャンパスだ。途中にコンビニが二件とラーメン屋が一件、通りの反対側にステバが一件、その他色々。

俺が再びこの大学に向かっているのは、つまり、今日が合否発表の日だからだ。

受験票とお守りは鞄の中にある。漢文のポストイットもある。受験勉強の生活はもう終わったのに、入れっぱなしのシステム英単語もある。

大学の敷地に入ってすぐの看板に、学部別の案内表示がある。教育学部の合否発表は北棟二階第三教室。

自分の進路をここで知るっていうのに、何だか、びっくりするくらい緊張していなかった。俺ってそんな性格だったろうか、でもとにかく平常心だった。ただ月詠先生のことは気になっていて、今頃何してるだろう、ああフツーに授業か、なんて、しょうもないことを考えていた。


北棟は寒いけれど、人で(おそらく俺と同じ受験生たちで)いっぱいだから、あまりそういう気がしない。色んな制服でごったがえす廊下を、とくにこれといって特徴のない銀高の学ランで渡り、わらわらと人の出入りする第三教室に入った。

ホワイトボードに貼られた大きな紙、並ぶ番号。受験票を取り出して自分の番号を確かめ、目を凝らす。


あった。

受験暗号2943100。あった。


つまり、受かった。大学。



認識してから力が抜けて、直前まで緊張なんてなかったのに、その場にへたり込んだ。へたり込んでから心臓が大きく鳴っていることに気付いた。どくん、どくん、ああ、俺、受かったよ、月詠先生。

家より先に学校に電話していた。月詠先生は授業中だから伝えとくわ、おめでとう。職員室で電話をとり、俺にそう言ったのは服部先生だった。



そのまま学校に行き、三時間目から授業に参加したはずだった。でもその日の授業の記憶も、昼飯の記憶も、あまりない。ただとても天気が良かった、それだけ覚えてる。

帰りのSHRを終えてから、俺は教室を出ていく先生の許に駆けて行った。


「先生!」

「春一郎」


先生は足を止め、振り返る。俺が何か言う前に、「おめでとう」と言った。いつもの低めの声だけれど、何だかいつもより声がやわらかい気がした。


俺が進路を決めた理由を思い出す。この人を喜ばせたい、この人を支えたい、この人に近付きたい。どれも本物で、どれも月詠先生で、どれも俺の決意だった。


「俺、」

「進路確定じゃな、これで」

「あの、俺」

「受験は終わるが、大学に入ればまた勉強じゃ。勉学に一層………どうした」


先生が目を丸くする。


何でだかわからないけれど、俺は泣いていたみたいだった。感情があふれて、あふれて、こぼれて、液体になって。ぼろぼろと止まらずに。それを拭いとるかのように、冬の西日が、きらきらと廊下を照らしていた。




「泣け。存分にの」



先生が俺の頭に手を置く。

そして、小さな声で、耳もとで、「ありがとう」と言った……ような、気がする。先生はそのまま職員室の方へ去って行った。俺はその後に教室から出てきた友人に泣き顔を見られて盛大にイジられた。その日の祝勝ラーメン会では全員が大盛りを頼んで、トッピングもゴージャスにして、全員の財布の中身が盛大に吹っ飛んだ。








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