(大学4年生×社会人1年生)
「あ、ようちゃん髪乾かさなきゃだめだよ」
「自然乾燥でいいだろ」
「だめ!風邪ひくよ」
「夏だから大丈夫」
「だいじょばない!」
「なんだその日本語」
その後も、ハゲるだのフケがでるだの、あることないこと言って俺の不安を煽りまくった小羽は見事勝利し、俺の頭を乾かしている。
…ドライヤーという名の凶器で。
「あちっ、ちょ、熱いっつの!」
「えー?なにー?」
「おま、ばか!熱い!痛え!」
「ちょっとだから我慢してー」
「聞こえてんじゃねぇか!」
「んー?」
「あっちぃいいいぃい!!!」
地獄のような5分間だった。色んなところが熱くて痛い。頭部以外のところまで。首とか絶対赤い。絶対だ。「終わったよ」の声に、じとり、と睨みながら振り向きたいところだが、小羽は親切心でやってくれたのだから、とぐっと我慢する。ほんと俺ってこいつに甘いよな。
「…ありがとな…」
「いいえ!楽しかったし」
「そうかよ…」
「あ!ねぇ、ようちゃん。わたしの髪も乾かしてほしいな」
「あん?自分でやれよ」
「ようちゃんにしてほしいの!」
と、半ば強引にドライヤーを渡された。まぁ、そこまで言われたら悪い気はしねーし、いいけどよ。このくらい。
ぶおお、と緩やかな温風で小羽の髪を丁寧に撫でる。…絶対俺のが上手いだろ。小羽は心地良さそうに目を細めていて、猫みてーでなんか可愛い。
「なぁ」
「うん?」
「今度からいつも俺が乾かしてやろっか」
「いいの?」
「おー」
今度から。今度泊まりにきたときは勿論、いつか一緒に住むとき。たったこれだけのことで嫌になるくらい甘い未来を想像してしまったのは小羽には絶対秘密にしとく。
「じゃあ、ようちゃんの髪はわたしが」
「断る」
「ええ!」
「お前は俺に甘えてりゃいーの」
ドライヤーのスイッチを切り、小羽の頭をぽん、と叩く。決して逃げたわけじゃねーぞ。
「ようちゃんのイケメン」
「ヒャハ、知ってる」
「…いつか、が早く来るといいね」
「だな」
明日からまた、暫く会えない。他人からしたら大した日数じゃないかもしんねーけど、俺らからしたら被害は甚大で。寂しい思いをさせる。勿論俺もする。
だから、次会うまでの充電をさせてと眉尻を下げて微笑う小羽を思い切り抱き締めた。
「めずらしい」
「何が」
「ようちゃんがエロくない」
「…今だけな」
「え?」
「ちゃんと後でエロいこともすっぞ」
「………」
「当たり前だろ」
20120829