ー3ー
「シ、シゲル…?」
いきなり抱き締められたサトシは困惑気味にシゲルの名を呼んだ。
「僕が何とかなると言える根拠は…、サトシもそして僕たちも一人じゃないからさ。」
「え…?」
シゲルの言葉はサトシにとってあまりに予想外なものだった。
一人じゃないから大丈夫だというシゲルの言葉の意味をサトシは理解出来なかった。
「サトシ。
君も、そして僕たちも旅をして、いろんな人やポケモンに出会ってきた。
もちろん出会いもあれば、別れもある。
だけどね、サトシ。
出会ってきた人たちと過ごしてきた時間はムダじゃない。
例え、短い時間しか一緒にいなかったとしても、それは大した問題じゃないんだ。
大事なのは、出会って別れるまでの時間の中でその人をどれだけ理解できるか、理解してもらえるかだと、僕は思う。」
「……。」
「確かに、時間も大切だと思う。
だけど、全てじゃない。
どれだけ時間をかけたとしても、その人を理解出来なければ、理解してもらえなければ信頼関係なんて築けるはずがない。」
「…さっきから…なにが言いたいんだよ…?」
「サトシ。
君がたくさんの人やポケモンと出会ってきたように、僕たちもたくさんの人と出会ってきた。
信頼できる人にも、たくさん出会えた。
もし、僕たちに何かあったとしても出会ってきた人たちが助けてくれる。
もし、大切な人が危険な目に遭っていたら僕は助けに行く。
人と人は、そうやって繋がっていくんだ。
いや、人だけじゃない。
ポケモンたちとも、そうやって繋がっていくんだ。」
「…繋がって…いく…。」
シゲルの言葉を聞いてサトシは目を伏せた。
要はシゲルは、何か危険が及んでも出会ってきた人たちが助けてくれるとそして、出会ってきた人たちに危険が及んでも、自分が助けに行くから、大丈夫なのだとサトシに伝えたいのだろう。
サトシはシゲルの言葉を聞いて、強い迷いに襲われた。
本音を言えば、夢を諦めたくない。
ずっと叶えたくて頑張ってきたからこそ、諦めたくないという気持ちは強くある。
だけど、そのせいで誰かに危害が及ぶのが怖くてたまらなかった。
『御子。』
強く迷うサトシに今まで沈黙していたホウオウが言葉を発した。
ホウオウに呼ばれたサトシは、視線をそちらへ向けた。
『…今まで、御子として生まれた者の中に、大切な人から拒絶された者もいた。
“お前に出会わなければこんな危険な目に遭うこともなかった”
と、御子の存在を拒絶した者もいた。』
「……っ!」
『だが…、今の御子…サトシ。
お前は違う。
お前の大切な者たちは、全てを知った上でお前の夢を応援している。』
「…ぇ…?」
『危険を覚悟の上で、お前の夢が叶うことを強く願う者の想いを無下にするのか?』
「…でも…。」
『…私もお前のために身体をはることを躊躇うような人間しか周りに存在していなければ、神域に留まるように言っていただろう。』
「………うん…。」
『だが、お前の周りにいる者は違う。
お前の努力を知り、お前の夢を心から応援している。
お前の夢を応援しているのは、そのシゲルという人間だけではない。』
「えっ…?」
ホウオウはそう言うと、視線をある方向に向けた。
ホウオウの視線を追ったサトシは目を見開いた。
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