―10―
『御子。』
「……ッ!
アルセ…ウス…。」
『…何故、そこまで体を張る?
伝説のポケモンたちは意識を失ってはいるが、だてに“伝説”と呼ばれているわけではない。
仮に御子がこの場から避難したとしても、死にはしない。』
「…死ななくても…傷つくことに変わりは…ないだろ…?
俺は…一緒に戦ってくれた仲間をおいて…逃げるつもりは…ない…。」
『……それはお前が“御子”だからか?』
「ちが…う…。
御子だとか…そんなの…関係ない…!
俺が…、俺自身が…仲間をおいて…いきたくない…んだ…。」
反動から意識のないポケモンたちを守りながら、サトシはアルセウスの問いかけに答えた。
みんなを守りたいのは自分が“伝説の御子”だからではない。
“サトシ個人”として一緒に戦ってくれた仲間を見捨てたくはないから。
『…お前は…そういう人間だったな…。』
アルセウスはサトシの言葉にふっと笑いながらそう呟いた。
アルセウスが信じていた人間に裏切られたと憎しみを募らせていた時、サトシがその憎しみから救ってくれた。
だから、今度は…。
『御子、お前の波動の力を私の力で安定させ…倍増させる。
お前の力を私の力に重ねるような感覚で波動を使えるか?』
「力を…貸してくれるのか…?」
『御子がお前ならば、力を貸すことをいとわぬ。』
「ありがとう…。」
アルセウスがサトシの少し前に立ち、力を貸す意を示すとサトシは感謝の言葉を返した。
「……ッ!」
『御子…?』
「…く…そっ…!こんな時に…!
体が…ッ!」
アルセウスと共に反動を消し去ろうとしたサトシ。
しかし、その意思とは裏腹にサトシの体はぐらりと傾いた。
無理もない。
サトシの体は強く渦巻いていたエネルギーを消し去ろうとしていた時すでにシゲルたちの支えがなければ立ち上がれないほどに疲弊していたのだから。
そのあとに返ってきた反動を消し去る体力がないのも当たり前のことだった。
精神はまだやれると思っていても、体はそれについていけない。
サトシが悔しそうに歯を食い縛った時だった。
「ふざけんじゃないわよ!
ここまできて諦めるなんて許さないわよ!!」
がくがく震えるサトシの体をまた誰かが支えた。
突然の支えにサトシは驚きに目を見開き、体を支えた主を見た。
「ロケット団…?」
「いいか、ジャリボーイ!
支えが必要なら俺たちが支える!!
だから諦めるな!!」
「そうだニャ!
反動を消し去れニャかったら、ニャーたちまで被害にあうニャー!」
「なんで…ここに…?」
あまりに予想外すぎて、サトシは強い戸惑いの中から抜け出せずにいた。
いつの間にか姿が見えなくなっていたから、てっきり逃げたものだと思っていた。
「別に弱ってる伝説のポケモンたちを捕まえるために隠れてたわけじゃないからな!」
「バカ!
私達の企みをあっさり喋るんじゃないわよ!」
「あ…、しまった…っ!」
「てっきりジャリボーイにはニャーたちがいることに気付いてると思ってたのにニャー。」
「…?」
「おミャーは、波動で何がどこにいるか分かるはずじゃニャーか?」
「あ、ああ…。
エネルギーを消し去ることに集中してて、そこまで気を回すことはできなかった…。」
「ほら!
だから言ったじゃない!
ジャリボーイは気づいてなさそうだって!
コジロウが余計なこと言うから!!」
「俺だけのせいか!?
ムサシだって、せっかく隠れてたのにジャリボーイの体を支えるために俺たちを放って姿を見せてるから、もう隠したって意味がないだろ!?」
「なによ!?
私のせいだって言うわけ!?」
「ケンカするニャ!」
「ニャースはどっちの味方なんだ!?」
「そうよ!
はっきりしなさいよ!」
「ニャ!?
ニャーにふるニャ!」
「いいから!」
「答えなさいよ!!」
「…ぷっ…。」
「「「…ジャリボーイ?」」」
目の前で言い争うムサシたちを見ていたサトシは途中でふきだした。
目の前で笑うサトシをムサシたちは不思議そうに見つめ、その視線を感じたサトシは笑いをこらえながら口を開いた。
「いや…、こんな緊迫してる中で言い争うなんてロケット団らしいなって思って…。
…うん、そうだよな…。
諦めたら…ダメだよな…。
ロケット団、俺の体を支えててくれ。」
「早く終わらせなさいよ!!」
「もたもたするなよ!」
「失敗したら許さないニャ!」
「ああ…!」
憎まれ口をたたきながらも、体を支えてくれるロケット団に感謝しつつ、サトシはアルセウスの方へ視線を向けた。
アルセウスは無言で頷き、今度こそ全てを終わらせるために意識を集中した。
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