―2―
「みんな、俺のせいで苦しい思いをさせてごめん。
…俺のせいでこんな状況になったのに、俺一人じゃここに満ちるエネルギーを消すことはできないから…、力を貸してほしい。」
サトシを囲むように立つ伝説のポケモンたちにサトシは頭を下げながらそう言った。
『御子よ、御子といえど波動の力を使えば使った分、返ってくる反動は決して軽くはない。
強い力を使った分、それは御子の体に負担となって返ってくる。
ここにいる伝説と呼ばれるポケモンたちに後を任せてこの場を去るという選択肢もあったはずだ。』
ホウオウに言われたサトシは軽く目を伏せたあと、ホウオウを見据え、口を開いた。
「俺のせいでこんな事態になったんだ。
俺がここで体を張らなきゃいけないんだ。」
『だが、それは操られていたからで、御子の意思でしたことではないだろう?』
「だけど、俺の力が原因であることに変わりはないだろう?」
『…人間とは不思議な生き物だ。
自らその身を危険にさらすのだから。』
「ホウオウ。
ごめんな。
俺のせいで迷惑をかけて…。
人間が招いたことなのに…、俺に力がないせいで巻き込んで…、本当にごめん。」
人間を強く憎んでいるホウオウはきっと、好きでこの場に来たわけではないのだと思っていたサトシは深々と頭を下げた。
しかし、ホウオウはサトシの前に立ち、静かに口を開いた。
『御子、人とは醜い生き物だ。
キレイゴトを並べるばかりでその行動はそれに伴っていない。』
「………。」
『…だが今は人間の全てがそうではないのだと知った。
他人のために体を張ることが出来る人間もいるのだと知った。』
「…ホウオウ…?」
聞いたことのない穏やかな口調にサトシは戸惑いに瞳を揺らした。
『御子、それを知る機会を与えてくれたお前に感謝している。
…だからお前に言おう。
御子、自分が何をしたいのか、何を目指しているのか考えろ。
…人生は一度きりだ。
自分が後悔のない人生を生きることを諦めるな。』
「…でも俺は…。」
『御子だから、なんて考えは捨てて、“サトシ”という一人の人間として何を感じて生きていきたいのかを考えればいい。』
「…………。」
『話はそれだけだ。』
ホウオウの言葉にサトシは俯いた。
何を目指しているのかなんて最初から決まっている。
だけど、自分はそれを目指して許されるような立場じゃない。
“御子”である以上、自分は“御子”として人生を生きなければいけないと、そう決めたのに…、ホウオウの言葉を聞いて決意が揺らいでしまった。
「サトシ」
「………!」
迷いの中にいるサトシは自分を呼ぶ声を耳にしてびくりと体を震わせた。
「シゲル…?
な、なんで…?」
「サトシ、一人で抱え込むのはやめてくれないか?
僕が…、僕たちがいる。」
「な、に言ってるんだよ…?
危ないから早くここから離れろって!!」
「サトシ、僕は君のそばにいる。」
「そんなこと…、俺は!」
「サトシ、君は独りじゃない。
僕たちも、そしてポケモンたちもいる。」
「……っ!」
「ピカピ。」
「…ピカ…チュウ…。」
そっとサトシの手を握りながら微笑みを浮かべたシゲル。
そして足元にはずっと一緒に旅をしてきた相棒がサトシを見上げて笑っていた。
「おれは…。」
「ピカピ!!」
「ピカチュウ…?」
俯き、体を震わせたサトシをピカチュウは呼んだ。
ピカチュウに呼ばれ、サトシはピカチュウへ視線を向けた。
ピカチュウはサトシがこちらを見たことに気付くと、自分の背後へ視線を向けた。
それを目で追ったサトシはほろりと涙を流した。
「ブイブイ!!」
「ムクホー!!」
「ウキャ!!」
「グライオーン!」
「ハンガ!!」
そこにいたのはシンオウを共に旅してきたポケモンたちだった。
それを見たサトシは俯き、こらえきれず涙を流した。
「みんな…、おれ…。」
俯き、涙を流すサトシの元に集まってきたポケモンたちはサトシのそばにそっと寄り添った。
「……ありがとう…。」
みんなの優しさにサトシはそう小さく呟いた。
[
*←前
] | [
次→#
]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -