―1―
『…御子の力が悪しき者の手に渡ったのだろう。』
苦しそうに顔を歪めるミュウツーの元へ近づきながらアルセウスは、おもむろに口を開いた。
「それは…どういうことだ?」
アルセウスの言葉にシンジは訝しげに眉を寄せながら聞き返した。
『御子は、母親を助けるためにこの神域へ送った。
お前たちをこの神域へ送った時、聞いたはずだ。
本来、この神域へ御子以外の人間が足を踏み入れることは禁じられている。
それを破り、神域へ導けば御子の身体に強い負担となって返ってくる。』
『…母親を神域へ送った今の御子を捕らえることなど造作もないことだ。
恐らく今、御子は神域へ送った負担により、満足に身動きも取れない状況だ。
ミュウツーが苦しんでいるのも、御子の力が悪しき者たちに何かされた影響だろう。』
「…アルセウスやホウオウは大丈夫なの…?」
アルセウスとホウオウの言葉にヒカリは不安そうな表情を浮かべながら問いかけた。
サトシは伝説のポケモンたちを操ることの出来る存在。
そして、神と呼ばれるポケモンたちも例外でないことを聞かされていただけに、心配で仕方なかった。
『我々、神と呼ばれるポケモンたちは神域にいる間なら、御子の力の影響を受けることはない。
神域は…今回のような出来事が起こった時に存在すると言っても過言ではない。』
「…どういう意味だ?」
アルセウスの意味深な言葉にシンジは眉を寄せたまま、問うた。
その問いにアルセウスはそっと目を閉じたあと、再び口を開いた。
『言っただろう?
御子の力はいつの時代でも悪しき者に狙われていたと。
御子の力を悪用しようと無理に力を使わされれば、我々は簡単に御子の思いのままに操られてしまう。
悪しき者から、世界を守るためにもその影響を受けない場所が必要だった。
この神域にいれば、神と呼ばれるポケモンたちは無理に操られることはない。
…だが、それも神域にいる間のみだ。
神域を出れば御子の力をもってすれば簡単に操られる。』
「そんな…。
じゃあ一体どうすれば…?」
『…御子を悪しき者たちから、お前たちが救い出せばいい。
御子の力は伝説、神と呼ばれるポケモンたちに有効だが、普通のポケモンたちにその力は及ばない。
…私もこの神域から出来る限り力を貸す。
厳しい戦いになるだろう。
だが、このまま御子の力を悪用させるわけにはいかない。』
「僕はサトシを助けるために彼らと戦うよ。」
「俺もだ。
サトシが苦しむなんて仲間として放っておけるはずがない。」
「私もよ!
サトシを必ず助け出してみせるわ!」
「私も戦うわ。
あんなに優しい子がギンガ団のせいで苦しむなんて耐えられないわ。」
「サトシくんを必ず助け出そう!」
「あのバカ、いつも無茶ばかりだ。
…俺はもう一度、アイツと戦いたい。
だから俺も行く。」
アルセウスの言葉にシゲルたちは戸惑うことなく頷いた。
サトシを助け出す…、その思いに偽りはなかった。
「あーあーあー!
熱いわね!熱苦しくて嫌になるわ!」
「まあまあ。
ムサシ、ここまで来たら俺達も戦おう!」
「コジロウの言う通りだニャ!
悪役はロケット団だけで十分ニャ!」
ため息をつきながら呆れたと言わんばかりの表情を浮かべるムサシを諭しながらコジロウとニャースも戦う意志を見せた。
「でも、ミュウツーは大丈夫か?」
『…ミュウツーは御子の力の影響で身動きが取れないが、神域にいれば少しずつ楽になるはずだ。
……人間たちよ、御子のことを頼む。』
今だに、苦しそうに顔を歪めるミュウツーを心配そうに見つめながら気遣うタケシにホウオウは心配ないと言った。
そして、シゲルたちにサトシのことを託した。
「ホウオウ、見ていてくれ。
人間は醜いばかりじゃないということを。
サトシを必ず助け出す。
そのあとは協力してほしい。」
『……いいだろう。
お前たちの戦いというものを見せてもらう。
…元の世界へ送る。
……無茶はするなよ。』
そう言うと、ホウオウは意識を集中させ、シゲルたちを元の世界へ送り込んだ。
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