―9―
「…サトシ、私が囮になるわ。
あなたは早く逃げなさい。」
悔しげに表情を歪めていたサトシにハナコは逃げるように言った。
ハナコを庇うように前に立っていたサトシはハナコの言葉に慌てて振り返り、口を開いた。
「ママ!?
何いってるんだよ!」
「どう考えても、彼らの目的は私ではなく、サトシ…あなたよ。
狙われる理由までは分からないけど、決していい扱いはされないことは分かるわ。
母親として、私はサトシを守りたいの。
分かったら、早く逃げなさい。」
「やだ!」
「サトシ!
聞き分けなさい!」
「嫌だって言ったら嫌だ!
ママが俺を守りたいのと同じように、俺だってママのことを守りたいんだ!」
「聞き分けの悪いことを言わないで!
…サトシ…、私はあなたのことを愛してるの。
大切な息子を守りたいという私の思いを聞き入れて。」
「…ママ…、ごめん。」
「…分かってくれればいいのよ……って…、…サトシ?」
ハナコにとってサトシは何にも代えられない大切な息子。
その息子に危険が迫っているのなら、己の身を賭けることに戸惑いはなかった。
それをただサトシに伝えたハナコ。
サトシが謝罪の言葉を発したのを聞いて、自分の思いを聞き入れてくれたのだと考え、安堵の息を吐いたハナコは何かに集中するように目を閉じたサトシを見て、訝しげに眉を寄せた。
「ママ、俺はいつもママに感謝してる。
ポケモンマスターになるために旅を続ける俺をママはいつも支えてくれた。
だから、俺はママに感謝の気持ちを返したい。
…こんなことしかできなくてごめんなさい、ママ。」
「…まさか…!サトシ!」
目を閉じていたサトシはその目をゆっくり開くと、悲しそうな表情を浮かべながら再び謝罪の言葉を発した。
その表情と言葉を聞いたハナコはすぐに察した。
サトシはハナコを置いて逃げる気などさらさらないことを。
ハナコを逃がすために、サトシが何かしようとしていることを。
それを察したハナコは悲しそうな笑顔を浮かべるサトシに向かって慌てて手を伸ばした。
しかし、ハナコが伸ばした手がサトシに届くことはなく…、ハナコの目に映ったのは、神秘的な場所…━━すなわち、神域だった。
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