06






「私を裏切っておいて、よくものこのこと姿を見せることが出来たものだな。」
「マスター…答えてください!」
「シュナを…マスターが殺したというのは本当なんですか!?」





シュリルとシュークはマスターの言葉を認めたくないと、何かの間違いだと信じたかった。




マスターから否定の言葉が返ってくると信じていた。






━━しかし…。





「フ…だったら何だというのだ?


オリジナル共に裏切られる前に私が一思いに殺してやったのだ。

感謝してもらいたいものだ。」
「なんだと!?」
「シュナが貴方に何をしたって言うのよ!!」
「あの女…オリジナルとレプリカが共に生きていけるなどと…戯言を言っていたのだ。


それを許せるはずもない!
だから殺した!!」
「ウソだ…ウソだ!ウソだぁあぁあぁあぁッ!」
「シュナ…いやぁぁあぁぁッッ!!!!」






マスターの言葉にシュリルとシュークは悲痛な叫び声をあげた。







「裏切ったとはいえ、お前たちは随分と役にたってくれた。
外見だけではオリジナルとレプリカの区別もつかず、計画が滞っていたために急遽、ルークを捕らえなくてはならなかったが、私がバチカルに向かうことが出来なかった…。」
「“ヴァン”の顔でもある貴方が行けば混乱を招きかねなかったからですね?」






ジェイドの言葉にマスターはジェイドを睨みながら言葉を発した。





「貴様の言う通りだ。

ネクロマンサー…。
顔を隠してバチカルに向かい、万が一にでも、私の顔がバレた時…私の計画が台無しになる可能性もあった。



だからシュリルとシュークに行かせた。」
「シュリルとシュークの気持ちを考えたことはなかったのか!?」
「そうだよ!

大切な人がずっと信じていた人に殺されていたなんて…そんなの悲しすぎるよ!」
「貴方には良心というものはないの!?」




「黙れ!!

生きる価値もないオリジナルに説教などされてたまるものか!


“良心”だと?
ならば貴様らオリジナル共にはあったというのか!?
我々、レプリカを“道具”としてしか見ていないオリジナル共にそんな口が叩けるはずもない!」


ティアたちの言葉など耳を傾ける必要などないと、マスターは怒号を浴びせた。





「…シュナは…シュナは何も悪いことはしていない!」
「それなのに…私達を都合よく動かすためだとか…共存を望むのが許せないとか…そんな理由で殺されたなんて…」







「「許さない…」」





今まで、頭を抱えて蹲っていたシュリルとシュークはゆっくり立ち上がり、涙を流しながらマスターを睨みつけた。






「許さないならどうするつもりだ?」
「貴方を…殺す!」
「シュナを殺しておいて…自分だけ、のうのうと生きていられると思うなよ!」





そう言うと、シュリルとシュークは懐に忍ばせていた短剣を手にマスターの元へ駆け出した。









「動くな」





マスターは2人の行動を予想していたのか、自分のすぐ横にあったスイッチに手をかけ、2人の動きを制止した。




「動けば…ルークがどうなるか…保証は出来んぞ」

マスターの言葉にシュリルとシュークは足を止め、アッシュたちは驚いたように目を見開いた。






「何を…するつもりだ?」
「1つ言っておく。


私を殺すのなら、ルークも道連れに死んでもらう。」




「Σなッ!?」
「ルークには手を出すなッ!」




「ならば、その武器を…短剣を捨てろ」






マスターの言葉にシュリルとシュークは悔しそうな表情を浮かべながら短剣を投げ捨てた。




「最初からそうしていれば良いのだ。」
「俺達は…マスター、貴方を信じていた…。

レプリカだからという理由で蔑み、罵ってきたオリジナルから平和を、平穏を奪い取るって理想を信じて、ついてきた。」
「それなのに…貴方は私達を最初から裏切っていた!

私達の大切な…家族を…存在を奪った!」
「…私の計画に犠牲はつきものだ。」
「シュナの犠牲はそんな言葉で片付けられるようなものじゃない!」






武器を捨てたシュリルとシュークは納得がいかないとマスターに非難の声を浴びせた。






ずっと、マスターの言葉を信じて動いてきた2人にとって、マスターの態度や言葉は2人の今まで生きてきた“証”を否定するようなもの。







2人はシュナを見捨てて逃げたオリジナルを…シェリーを憎んでいた。




シュナを見殺しにしたオリジナルを許さないと憎んでいた。




だからこそ、マスターの言葉に、理想に手を貸すことにしたのだ。






そう思わなければ、2人の心は壊れてしまいそうだったから。



そう思わなければ、シュナの死を受け入れられなかった。


否、シェリーと話をするまでは受け入れてもいなかったのかもしれない。






マルスやシェリーや、アッシュやガイ、オリジナルたちと話をして考えを改めることが出来た2人に待っていたのはずっと信じていたマスターがシュナを殺していたという信じられない事実だった。







2人の中にあった憎しみは再び強くなっていた。




目の前にいるマスターはシュナを殺したことを悪いとも思っていない。


それが許せなかった。







「…シュナを…返して!」
「お前がいなければシュナは死ななかった!
お前さえ生まれなければ…生きる価値がないのはお前の方だ!
お前なんか…死ねばいいんだ!」




「シューク!!」






憎しみをぶつけるように言ったシュークの言葉にルークは装置の中から強い口調でシュークの名を呼んだ。





ルークの表情を見れば悲しそうに、シュークを見つめていた。



「シューク、それは…言ったらダメだ!」
「な…何でだよッ!

コイツは…シュナを…シュナを殺したんだ!
それなのに悪いとも思ってない!
そんな奴がのうのうと生きていることを許せっていうのか!?」
「どんな理由があっても“生きる価値がない”とか…“死ねばいい”とか…そんな言葉を使ったらダメだ!」
「ルークには…分からないわよね!

私とシュークにとって、シュナがどれほど大切な存在だったか。


レプリカである私達が彷徨い歩く中…あの子は必死に私達を励ましてくれた。

笑っていてくれた。



私達にとってシュナはかけがえのない存在だったのよ!

それを…それを…アイツは簡単に踏みにじったのよ!」
「…シュナって子をマスターが殺したからって…シュリルとシュークが生きる価値もないなんて言ってもいい理由にはならない。


その事実を知って、憎しみにとらわれたら、結局…2人は何も変わらないままだ。


2人は…変わりたいんじゃなかったのか?」




ルークの言葉を聞いたアッシュたちは何も言えなかった。


あの旅の中でルークは変わりたいと必死にもがいて、前に進むために、戦ってきた。
生きてきた。



そんなルークの言葉だから、アッシュたちはルークが軽い気持ちで言っているようには思えなかった。



「俺も…変わりたいってずっと思ってた。


でも、簡単に変われるものじゃないから…生半可な気持ちじゃ何も変わらないんだ!

シュナの死を受け止めて…前に進むんじゃなかったのか!?」
「それは…」
「……ッ!」



ルークの言葉にシュリルとシュークは拳を強く握り締めて俯いた。

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