03







「…シュリル、シューク…。

必ず…必ず帰ってきて…必ずよ?」
「俺とシェリーはここで待っているからな。

4人で…笑いあうために…幸せになるために…待っているから」














シュリルとシュークにマスターのいる場所へ案内を頼んだアッシュたちの会話を今まで黙って聞いていたマルスとシェリーだったが、それぞれがシュリルとシュークの手を取り、そう言葉を発した。




「…必ず…帰ってきます。」
「シュナが遺してくれたものをムダにしたくないから、だから…必ず帰ってくる。」





マルスとシェリーの言葉にシュリルとシュークも力強く頷いた。




「では…2人とも、案内をお願いします」





ジェイドの言葉と共にアッシュたちは部屋を後にした。









***



「マスターのいるところはオリジナルたちに見つかることのないように深い森の中にあるの。」
「闇雲に動いたりしたら迷うから…俺達についてきてくれよ」






マスターの元に案内するために足を進めていると、シュリルとシュークがそう言った。





「深い森の中…ですか…

…どうりで見つからないはずです。」
「旦那はマスターの居場所を探していたのか?」
「はい。


兵士たちにマスターの居場所の捜索をしてもらっていたのですが…シュリルとシュークについてこないと迷うような場所の捜索を確証がない限り、するはずがありません。

恐らく…我々がそう考えることも予想して、その場所を選んだのでしょうね」
「その通りよ。

マスターはオリジナルに自分の場所を汚されたくないと言っていたわ」
「でも…シュリルもシュークも大丈夫なの?

だって…私達オリジナルがその場所に足を踏み入れることを嫌ってるって分かってるはずなのに…私達を案内するってことは…その分、マスターの怒りを買うってことでしょ?」



アニスはシュリルとシュークを心配そうな表情を浮かべながら問いかけた。



対するシュリルとシュークはアニスの言葉に驚いたように目を見開いた後、言葉を発した。

「…これはマスターが孤独から解放されるためにも必要なことだから。」
「このままマスターの言葉に従うだけじゃ…本当の意味でマスターを救うことは出来ないと思うの。

だから…マスターの怒りを買うことになったとしても、私達はそれを受け止めるわ」








シュリルとシュークを見ていたアッシュは思った。




人はこうも強く変われるものなのか、と。

今のシュリルとシュークからは迷いもなく、とても強い意思を感じる。




ただ憎しみをぶつけていた2人からは想像も出来なかった。




あの時の2人は言うなれば、自分の居場所をルークに奪われたと憎しみをぶつけることしか出来ずにいた…過去の自分と同じなのではないかと。


人は認めあい、助け合うことで自分にとって必要な何かを見出だせる生き物なのではないかと…。

シュリルとシュークを見ていてアッシュはそう思った。



そして…マスターに欠けているのが、正にその点だから…。


憎しみの感情を抱いて生きるのは悲しすぎる。

それは本当の意味で生きているとは言えないのだと、アッシュはそう思った。





今回の件で、アッシュは改めて“レプリカ”という存在について考えさせられた。



彼等が抱えていた苦しみや願いをシュリルやシューク…そしてマスターを通して見て、自分はそれらのことに関して、無関心だったことに今更ながら恥じた。




だからこそ、アッシュはこれから先…今…自分が関していることを忘れずにいかしていきたいと、新たな決意を胸に向き合うことを自分の心に誓った。






森の中を歩き始めて30分ほどたち、ふいにシュリルとシュークが立ち止まった。





「ここよ。」



シュリルの言葉に前を見るが、目の前にあるのは鬱蒼と茂る森だけで、とてもじゃないが、人が住めるようには見えなかった。





「…シュリル、シューク…これは一体…?」


その場にいる誰もが思った疑問を代表してガイが2人に問いかけた。





「…マスターはオリジナルに自分の居場所を汚されたくないってさっき、言ったわよね?


…例えば、偶然にオリジナルたちがここに来たとしても、気付かれないようにマスターは手を打ってあるの。」
「どうやって?」
「ここから先に進むためには私達レプリカがいないと無理なのよ。」
「…第七音素、ですか…。」





ジェイドが発した言葉にガイたちはハッとした表情を浮かべた。




「レプリカの体は第七音素で構成されている…つまり、入口を開くためには、レプリカがいないといけないようにしていたってことか…第七音素にしか反応しないなら俺達オリジナルがここにたどり着いたとしても…気付くことはない…」
「ずいぶん…徹底しているのね…」


マスターがそこまでしてでもオリジナルと関わりたくないと思っている事実を改めて突き付けられた気がして、悲しく感じた。





そこまでマスターを追い詰めたのはレプリカを“人”と認めようとしなかったオリジナルたちなのだ。





それを痛感したアッシュたちは苦虫を潰したような表情を浮かべていた。






「…最後にもう1度だけ言っておく。
生半可な気持ちでマスターに会うつもりなら帰ってくれ。」
「そんな気持ちでマスターと話をしたって、マスターの心に届くはずはないんだから。

…そんなことしたって、更に状況を悪化させるだけ。
それなら帰ってもらった方がいいわ」





確かにシュリルとシュークの言う通りだろう。
ここまでオリジナルを嫌っているマスターに軽い気持ちで会って説得したところで、マスターが心を開くはずもない。




逆に、そんな気持ちで話をしてマスターがオリジナルに対して抱いている憎しみの感情を強くさせることになってしまったら、取り返しのつかない事態を招きかねないのだから。




「…人は…変われる。

俺はシュリルとシュークを見ていてそう思った。

だから、マスターも変われるはずだ。


前を見て、本当の意味で生きていくために。

だから、俺はここで引き返すつもりはない。
生半可な気持ちなら俺はここに来ない。」
「…そうだな。

ルークだって、あの旅で変わった。
シュリルとシュークだって、俺達の言葉に耳を傾けてくれた。
…解ってくれた。



俺は時間はかかったとしてもマスターにも気持ちが通じると信じている。


同じ“人間”として、俺達にもマスターにも心が…感情があるんだから。」




アッシュの言葉の後にガイも自分の気持ちを確認するように、言葉を発した。
そして、言葉はなくてもジェイドたちも同じ想いを抱いているのか、シュリルとシュークを見て力強く頷いた。





「…その言葉を聞いて安心したわ。

…あなたたちのこと…信じるから」
「歩み寄らなきゃ、何も変わらない。


それはアンタたちから、…そして…シュナから教えられたことだ。

だから…マスターにもそれが伝わることを祈るだけだ。」

迷いのないアッシュとガイの言葉にシュリルとシュークも安堵した表情を浮かべた。






「…入口を開く。」
「…よろしく頼む。」





言葉を発した後、シュークが、ゆっくりと前に向かって足を進め、鬱蒼と茂る森の先に手をかざした。




その瞬間、淡い光が辺りを包み込んだ。

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