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「マスターは…あなたたちの誰もがよく知ってる、ある人のレプリカよ。」
「ある人…?」
「マスターがその人のレプリカだから…ただそれだけの理由でマスターは…きっと私達よりヒドい目にあっていたと思うの。

…マスターの背中を1度だけ偶然…見たことがあったんだけど…ヒドい傷があった…。

傷は癒えているのに…ヒドい傷だったから跡としてしっかり残っていたの。
それも1つや2つじゃなかったわ。」


悲しそうな表情を浮かべながら言ったシュリルの言葉にシュークを除く全員がごくりと唾を飲み込んだ。



「俺は…マスターの傷跡は見てないけど、シュリルが俺のところに駆け寄りながら涙を流す姿を見て…、俺の胸まで締め付けられるような感覚に襲われたくらいだ。

きっとアンタたちや俺が想像する以上のものだったんだと思う。」



声を震わせたシュリルをそっと抱き締めながらシュークも顔を歪めながら言った。
シュリルとシュークを遠慮がちに見ながらルークがおずおずと口を開いた。



「あの…さ、マスターの目的はなんだ?
シュリルとシュークは知ってるんだろ?」
「…それを言う前に…ルークに聞くわ。

それを知った時…貴方はマスターをどうするつもりでいるの?」
「俺もシュリルもマスターの苦しみを少しは分かってるつもりだ。

“レプリカ”だからという理由で蔑まれてきた同じレプリカだから…。
…だからオリジナルとレプリカは別の存在だからとかそんなの関係なく…ルークも多かれ少なかれ俺達やマスターと同じようにオリジナルに苦しめられてきたからこそ、ルークの気持ちを聞きたいんだ。」
「俺は…。」



シュリルとシュークに問われて、ルークは悲しげに表情を曇らせながら少し俯いて言葉をつまらせた。



ルークとて忘れたわけではない。
屋敷で、城下町での、数々の蔑んだ視線や言葉を。




『レプリカのくせに。』
『人間もどきの化け物が』
『気持ち悪い』
『顔も見たくない』
『図々しいレプリカだ』



そんな言葉を何度、耳にしたことだろう。

時には
『死ねばいいのに』
と言われたこともあった。



苦しかった。
それに何度も泣いた。
アッシュたちには言ってないが、
“自分は死んだ方がいいのではないか?”


そう思ったことも1度や2度ではない。




だから、ルークはマスターのことを他人事のようにはどうしても思えなかった。
目の前にいる、シュリルとシュークがそうであるように。





「…俺は…マスターに生きてほしい。

生きるって言っても…ただ呼吸したり血が流れてるだけじゃ意味がないんだ。

“生きたい”
マスターに…そう思ってもらえるように…俺はマスターに俺の想いを、気持ちを伝えたい。

きっと…今のマスターは“自分の死”さえも…どうでもいいと思ってると思う…。
自分が生きるということに無頓着になっている分…オリジナルへの憎しみが強いと思うから…。
そんなの…悲しすぎるだろ?
…辛すぎるだろ?

だって、マスターだって生きてるんだ。
この世界に生きる、かけがえのない命なんだ。

それは1番…無頓着になったらいけないことなのに…。」
「ルーク…。」



ルークの言葉にその場はシンと静まり返った。




「…マスターに…ルークの気持ちが伝わるといいな…。」
「そうね…。

ルーク、マスターの目的は…この世界にいる生きとし生けるものを全て消し去ることよ。

私達、“レプリカ”以外の全ての命をね。」
「バカな…そんなことが出来るはずも…、」
「それはどんな確証があって言っているんだ?
ネクロマンサー、ジェイド。

…マスターの力をナメたら痛い目みるぜ?

マスターがオリジナルに抱いている憎しみが強いって言っただろ?
気持ちが強ければ強いほど、それを実現させることは難しいことではないんだ。

…その想いが、“憎しみ”だとしても…。」



信じられないと言葉を発したジェイドにシュークは、そう言葉を発した。



「マスターの計画を実現させるためにはローレライと完全同位体であるルークが必要不可欠なんだ。」
「だから、ルークが狙われたのね…。」
「そうよ。

だからマスターは、再びルークを狙って姿を現すと思うわ。

マスターの計画を阻止するためにもルークを必ず守り通さなければならないの。」



ティアの言葉に頷きながら、シュリルはそう言葉を発した。



「…ルークがローレライの完全同位体だから狙われるというのは分かった。

でも、ルークが完全同位体だからってそれが何だというんだ?」


ガイは片手を顎にあてながら、考え込むように口を開いた。
その問い掛けにシュリルとシュークは互いに顔を見合わせたあと、口を開いた。


「マスターは…ある音機関にローレライの力を注いで、その音機関の力でオリジナルたちを殺すつもりなの」
「…1回だけ、第七音素をその機械に注いで、使ったところをマスターから見せてもらったことがあるんだけど…スゴい威力だった。

普通の第七音素であれだけの威力があるなら…マスターの計画通り、オリジナルたちを殺すことなんて造作もないことだと思う。」


シュークの言葉にジェイドは少し驚きを表情に浮かべながら口を開いた。



「第七音素とその音機関の力で本当にそんなことが可能だと?」
「…マスターは、音機関に関してはスゴい知識を持っているわ。

貴方やディスト…だったかしら?
貴方たちと比べたとしても音機関に関してはマスターに敵う者はいないでしょうね。」
「そんなに…スゴいの?」


キッパリと言い切るシュリルにアニスも驚いたような声をあげた。



「…今の私達なら、マスターの音機関の知識をもっと別のことに使えたのに、って思えるけど…マスターは…オリジナルに復讐することしか考えてないと思う…。」


マスターを、否…レプリカたちをそこまで追い詰めてしまったのは他でもない、“レプリカ”という存在を認めようとしないオリジナルたちだから…。


シュリルの言葉に、アッシュたちは表情を曇らせた。


「…マスターは…誰のレプリカなんだ?」



重い沈黙がしばらく流れていたが、その沈黙を破ってアッシュがシュリルとシュークに問い掛けた。





マスターがオリジナルを憎むことになったのは、オリジナルたちがレプリカを人間もどきだと罵っていたかと思えば都合のいい時だけ、オリジナルの責任を何も知らないレプリカに押しつけたから。






ここにいる者たちなら、レプリカはオリジナルを元に生まれて来るとはいえ、レプリカはそのオリジナルとは全く別の命だと、別の存在だと分かっている。



だが、それはここにいるルークを含めて、アッシュたちがあの旅の中でたくさんのレプリカたちと話したり、その姿を見て来たから。



だから、アッシュたちはレプリカとはいっても、別の“個”だと思えたが、この世界に生きるほとんどのオリジナルたちは、レプリカを化け物や道具程度にしか思っていないのは紛れもない事実。




今の現状をそう簡単に変えることは難しいだろう。


だが、アッシュたちはそれを無駄だと諦めるつもりは全くなかった。


自分の意志を強くもてば、時間はかかっても変えられるものだと信じているから。



レプリカである“ルーク”をオリジナルである“ルーク”がその存在を認めたように。









マスターと話をするためにも、分かり合えることを伝えるためにもアッシュはまず、マスターのことを知らなければならないと思った。




そして、それはガイたちもアッシュと同じように考えているからこそ、アッシュの問い掛けに真剣な表情を浮かべながら、シュリルとシュークの言葉を待った。








「マスターは…、」



その思いを感じ取ったのか、シュークが同じように真剣な表情を浮かべながら、口を開いた。

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