06




「…俺は、遅すぎるとは思わない。
2人は俺たちやルークの言葉をきちんと受け止めてずっと悩み、苦しんできた。
それを俺は逃げていたとは思わない。
2人は前に進むための1歩をようやく踏み出そうとしているんだ。

……ありがとう…。
俺の言葉を受け止めてくれて…。」
「…騙されない…騙されないッ!!
そんな…言い方したってオリジナルなんかに、うまく丸めこめられるつもりはないッ!」
「シューク…。
俺はシュークのことを“レプリカ”なんて目で見て言っているつもりはない。

シュークも俺達と同じで生きてるんだ。
“レプリカ”だと言う目でみたら俺はそれを否定することになる。
俺は2人なら前に進めると思ってる。」
「俺は…、」
「俺達を“オリジナル”だという目ではなく“1人の人間”として見てくれ。」
「ガイの言う通りだ。
…俺も今回のことでいろいろと考えさせられた。」



ガイの言葉に賛同しながら、アッシュがシュークに近付き、真剣に見据えながら口を開いた。
その目には“レプリカ”だと蔑むようなものは感じられず、ただ真剣に向き合おうとする強い意思を感じた。



「俺は…今回のことで、相手のためだと思い込んでしても、それが本当に相手が望んでいることとは違うことがあることを知った。
きちんと…向き合って話をしなければいけないことも知った。

相手を想ってやっていたとしても、ソイツが何を望み、何を考えているのかを知らなければ、それはただ自分の気持ちを押しつけているだけなのだと…知った。
あの時の俺はそれを知らずに…ルークを苦しめて追い詰めていただけだった。
…シューク…お前も今の俺と同じだ。
何が大切なのかを知って、どうすればいいのか真剣に悩んでいる。

それは…お前が逃げずに向き合っていることになるだろう。」
「シュリルもシュークも私達と同じで生きてるんだもん。

レプリカとかそんなの関係なく私達はお互いをもっと知れば分かり合えると思う。」


アッシュの言葉にアニスもシュークを真剣に見据えながら、そう言葉を発した。


「私も…あなたたちを“レプリカ”だという目でなんて見たくないわ…。
ただ生まれ方が違うだけで私達と同じように感情だってあるんだもの。

だから、差別した目で見ることは出来ないわ。」
「私達はお互いに言葉が足りなかったのかもしれませんわ。

それに…、レプリカたちが苦しんでいるのは私の力不足のせいですわ…。

私…これからはもっとレプリカだとかオリジナルだとか、そんな差別をなくせるように努力しますわ!」



それぞれがそう言葉を発した。

みんな、シュークを真剣に見据えて真剣に向き合った。
シュークが“オリジナル”をすぐに信じることが出来ない理由は、2人から聞いた過去が大きく影響していることを分かっていたから。


だからこそ、アッシュたちはシュークが自分達に向き合ってくれるのを待つことにした。


シュリルとて、悩んで前に進もうと、踏み出そうとしているのだ。
シュークにも前に踏み出してほしいと切に願った。




「俺に…オリジナルの何を信じろって言うんだよ…。
アイツは…あの女はシュナを盾にして逃げたんだぞ…。
俺の頭からシュナが殺されたあの光景がずっと離れない…。
こんな気持ちで前になんて進めるわけがない…。

俺は…シュナの気持ちを裏切ったオリジナルを…あの女を絶対に許せない…!」
「裏切ったわけではないと思いますよ。」



シュークの言葉を遮るように1つの声がそこに響いた。
突如聞こえてきた声に声のした方…扉へと視線を向けると、そこにはジェイドがいた。



「ジェイド…!」
「…いつ帰って来たんですか?」
「たった今です。

シュリルとシュークもいるようですね。
おかげで捜す手間が省けました♪」


ジェイドの言葉にナタリアがハッとした表情を浮かべて、ジェイドに向かって口を開いた。




「そういえば…ジェイドは
“裏切ったわけではない”
とおっしゃいましたわ。
それはどういう意味ですの?」


ナタリアの言葉にうさん臭い笑みを浮かべていたジェイドも真剣な表情を浮かべて、再び口を開いた。



「シュリル、シューク…。
あなたたち2人は肝心な事実を知らないままでいます。」
「…どういうことだよ?」


ジェイドの言葉にシュークは眉間にシワを寄せながら問い掛けた。



「彼女は…シュナはあなたたち2人を守るために身を犠牲にしたわけではありません。



シュナは彼女を…シェリーも含めた3人を助けるために体をはって助けたんです。」



ジェイドの言葉にシュリルとシュークは苦痛に顔を歪めて俯いた。


「そんなこと…いちいち言うまでもないだろ?!

あの女が…シェリーがシュナを見捨てたって事実は変わらないんだ!」
「それが誤解だと言っているんですよ。」




ジェイドの言葉にシュリルとシュークは目を見開いた。





「そう言える訳を…聞いてもいいかしら?」
「シュリル!?
オリジナルなんかの言うことを信じるって言うのかよッ!」
「だってこのままじゃ、私達は前に進めない!

私は前に進みたいの!
シュナがそうして生きてきたから!
私達は…逃げずに向き合わなきゃいけないのよ!
そうでしょ?!」
「………ッッ!」





シュリルの悲痛とも言える叫びにシュークも瞳を揺らして俯いた。






「シュークだって、本当はもう分かっているんでしょ?

ずっと逃げ続けていたことに向き合わなきゃいけないってこと…。

辛い過去でも受け止めて…前に進まなきゃ、いけないってこと…。」





そう言いながらシュリルは涙を流した。
シュークはそんなシュリルの姿を見て、肩を震わせながら小さく頷いた。




「私達の知らない真実を教えてください」




シュリルは涙を拭いながら、ジェイドにそう言った。

ジェイドも静かに頷くと、扉の方に目を向けながら言葉を発した。







「入ってきてください」






ジェイドの言葉の後、閉まっていた扉が静かに開いた。









「あんたたちは…ッ!」







入って来た人物を見たシュリルとシュークは驚きを隠すことなく、その人物を見た。













「久し振りね…

シュリル…シューク。」










そこにいたのは、オリジナルの代わりを強要していたマルスとシェリーだった。







「なんで…ここに…。」





マルスとシェリーを見たシュリルは体をガタガタと震わせながら、小さく呟いた。






「…あなたたちに…謝りたいのと…私達の気持ちを聞いてもらいたかったから…」
「ジェイドさんから、2人の話を聞いて…もう1度、話をしたくて俺達は来たんだ」



「どの面さげて…俺達の前に現れたんだ!

シュナを見殺しにしておいて!」
「シュナを邪魔者扱いしていたあなたたちに何を話すことがあると言うの!?」

「違うわッ!


私は…あの子を邪魔者扱いなんてしてないわ!


最初は…その言葉を否定出来ずにいたけど…今はあの子を…シュナを大切な私の子供として愛しているわ!」
「だったら…何でシュナをおいて逃げた?!

シュナを墓場になんか連れて行ったんだ!?
墓場をシュナの死に場所に選んだからだろう!」
「話を聞いて…!

あの子の、シュナのためにも…あなたたちには聞いてほしいのよ!」
「シェリーの話を聞いてやってくれ。


頼む!」





そう言いながら、マルスとシェリーはシュリルとシュークに頭を下げた。




シュリルとシュークは戸惑った。
2人の知るマルスとシェリーとは違いすぎていたから。



代わりを強要してきたマルスとシェリーが、今は自分達を1人の人間として真剣に向き合って接しているのだから…。

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