07
「無理にとは言わない。
話すかどうかはルークが決めてくれ。」
「……………。
…どこにいるのか…聞かれて…ここって…グランコクマでいいんだよな?
アンタ…マルクトの皇帝だろ?」
「あ…あぁ…。
確かに俺はマルクトの皇帝で、ここはグランコクマだが…。」
「マスターに俺がグランコクマにいるって言ったら…シュリル様とシューク様に知らせるって言って一方的に切られたんだ…。」
「Σ…なんだと!?
それじゃあ…奴等にルークの居場所がバレたことになるじゃないか!
おい…!誰か、誰かすぐにジェイドたちにルークの居場所がバレたと伝えろ!
それと、すぐにグランコクマに戻るようにも伝えろ!早く!!」
ルークの言葉を聞いたピオニーは焦りを表情に浮かべると近くにいた臣下に早急にジェイドたちに連絡をとるように伝えた。
「陛下、ファブレ公爵がお見えになりました。」
「すぐに通せ!」
「はっ!」
入れ替わりにファブレ公爵が到着したとの知らせを聞いて、ピオニーはすぐに通すように伝えた。
「何で…そんなに慌ててるんだ?」
慌てるピオニーを不思議そうな表情を浮かべて見つめていたルークは、ピオニーにそう問い掛けた。
「…ルーク、お前…本当にマスターの言うことが正しいと…本気で思っているのか?」
「なに…言ってるんだよ?」
「お前は自分の心を信じろ!
いいか?
ルーク、記憶は偽れたとしてもお前の“心”は誰にも奪えない。
本当に大切なことなら、心が大切なものを教えてくれるはずだ。
まやかしの記憶に騙されるな…!
何が本当かは他人が決めるわけじゃない。
自分で決めるんだ。」
「アンタ…。
どうして…そこまで…。」
戸惑いに瞳を揺らしながらルークは問い掛けた。
「ルーク、お前が大切だからだ。」
戸惑うルークの問い掛けにピオニーとは違う声が答えた。
「アンタは…?」
「やはり…覚えておらぬか…。
ルーク、お前の父だ。」
ルークの問い掛けに答えた人物…ファブレ公爵が、再び問われた言葉にそう答えた。
対するルークは、思いもよらない言葉に目を見開き、ファブレ公爵を睨みながら口を開いた。
「俺は…レプリカだ!
レプリカには父親も母親もいないんだ!
デタラメを言うなッ!」
「デタラメではありませんよ、ルーク…。」
ファブレ公爵の背後からまた1人、姿を現した。
そう…アッシュとルークの母、シュザンヌだった。
「ルーク、貴方が何と言おうとも私も、旦那様も貴方のことを息子だと思っています。
アッシュも…貴方も私の大切な息子です。」
「ルーク…、私達はさらわれた息子が見つかったとの知らせを聞いてここまで来た。
我が子を心配するのは親として当たり前のこと。
これが私達の正直な気持ちだ。
それでも…お前は私達の気持ちや言葉をデタラメだと言うのか…?」
クリムゾンとシュザンヌの言葉にルークの心はただ戸惑うだけだった。
自分の記憶の中に、2人の姿はない。
全く覚えがない。
でも…。
なんでだろう…?
2人が来てくれて嬉しいと思う自分がいる。
知らない人が来たのなら、普通嬉しいなどと思うはずもないのに…。
なんで…こんなに心が温かいんだろう?
「ルーク…、自分の心の声にだけ耳を傾けろ。
お前の心は…何と言っている?」
ピオニーの言葉にルークは何かがふっきれたような気がした…。
「俺は…アンタたちなんか知らない。
見たことも話したこともない。」
きっぱりと言い切ったルークの言葉にピオニーもクリムゾンも、シュザンヌも悲しげな表情を浮かべた。
それを見やりながら、ルークは更に言葉を続けた。
「でも…、不思議なんだけど…記憶の中にアンタたちの姿はないのに…。
それなのに…、心配してくれて嬉しいって思う自分がいて…。
心が温かくて…すごく…満たされた気持ちになるんだ…。」
「ルーク…。」
ルークの言葉を聞いてピオニーたちは嬉しそうに微笑んだ。
ルークの中に自分達の記憶はないのは悔しくて悲しいが、それでも…ルークは心の奥底で自分達を覚えていてくれていたのだ。
嬉しくないはずはない。
ルーク自身は決して楽ではないだろう。
“記憶”は知らないと…オリジナルは憎むべき存在だと言っているのに…それでも…“心”は嬉しいと…満たされていると全く逆のことを言っているのだから…。
ルーク自身もこのあまりにも不自然な記憶と心に困惑する気持ちを隠せずにいる。
何を信じていいのかが分からないのだから…。
“自分”を信じたいのに、不自然な記憶と心がそれをさせようとはしない。
戸惑うルークを救ったのは他でもない、ピオニーの言葉だった。
『本当に大切なことなら、心が大切なものを教えてくれるはずだ。』
『まやかしの記憶に騙されるな…!』
『何が本当かは他人が決めるわけじゃない。
自分で決めるんだ。』
ピオニーの“まやかしの記憶”という言葉を聞いて、ルークの心は叫んだ。
『今の自分の記憶は本物じゃない』と…。
そこに現れた、レプリカの自分を“息子”だという2人…。
知らない2人のはずなのに、心から心配してくれたことを本当に嬉しいと思った。
ありがとうを言いたいと思った。
そして心配をかけてごめんなさいと言いたくなった。
記憶と心は真逆なことを叫ぶけど、ルークは思った。
記憶より“心”を信じたい…と。
自分にはマスターよりも、ここにいる人たちや、いつの間にかいなくなっていた、名前も知らない彼等の方が大切だと思った。
「…分からない…けど…、俺は…あなたたちがそばにいてくれることを本当に…嬉しいって思う。」
“違う…!
オリジナルたちは信用する価値もない!
消えてなくなるべきだ!”
「やっぱり…、記憶は全然違うことを言うけど…。
俺…自分の心を信じたい。」
“記憶を疑うな!
心なんて信じる必要はないんだ!”
「違う…違う!
俺は…俺自身が信じたいのは…“記憶”なんかじゃない…“心”なんだ!」
頭を振りながらルークは自分の記憶に言い聞かせるように、そう言った。
「ルーク…大丈夫ですか?」
「無理はするな。」
「ルーク…疲れただろう?
少し休むといい。」
必死に、何かと戦うように呟くルークを3人は心配そうに見つめた。
ピオニーの言葉にルークは小さく頷くと、再び眠りについた。
「相当な負担にはなっているようだな…。
自分の中で納得はしても…やはり違うことを言う記憶と心のせいでルークの負担は相当なものだ…。」
「ルーク…、本当に無茶をする…。」
「それでも…、この子は私達の気持ちを嬉しいと言ってくれました。
私にはそれだけで十分です。」
シュザンヌの言葉に2人も深く頷いたのだった…。
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