04





「…行くぞ。」
「陛下、ルークを頼みます。」
「任せておけ。

今日の午後には公爵も到着するだろう。
そうやすやすとルークを奴等の手には渡さん。」


ピオニーの言葉を聞くとアッシュたちは、ダアトへと向かった。



恐らく、ダアトにいるはずのルークを血眼になって捜しているだろうと予測したためだった。
ダアトで目撃されて以来、あの2人の情報がなかったため、ダアトに向かうしか方法がないといった方が正しいのかもしれないが…。



「いるといいがな…。」


ぽつりと呟いたアッシュの表情はとても暗いものだった。
ダアトにいなければ、苦しむルークをすぐに助けてやることは出来ないのだから…。

とはいっても、ダアトにいて、あの2人を捕まえることが出来たとしても、素直にルークの記憶をルークに返してくれるのかも分からない…。




ましてや、記憶を奪って、それを戻すことが出来るのかも分からないのだ。



今の状況は決してルークにとっていいとは言えないものだ。
アッシュが沈む気持ちが判らないでもない…。


アッシュの言いたいことがわかったのか、その場にいた全員が眉を寄せて悲しげな表情を浮かべて俯いた。





「俺が…ルークの苦しみに気付いていたらこんなことには…。」
「ならなかった、とでも言いたいのですか?」


アッシュの言葉を遮って口を開いたジェイドの表情は硬く、怒っているようにも見えた。



「貴方がルークの悩みや苦しみに気付いていたとしてもルークが彼等にさらわれなかったとは言い切れないと思いますが?

過去を悔やむことなら誰にでも出来ます。
大事なのは悔やんだ後に何をするか、何が出来るかを考えることではないですか?
後悔は先に立たないものです…。
後悔した後に何もしないのなら、結局は何も変わりませんよ。

貴方も、…そしてルークも…。」



ジェイドの言葉にアッシュは何も言い返すことが出来なかった。

他のメンバーもジェイドの言葉をとても重いモノとして受け取っていた。








“フォミクリー”という技術を生み出したジェイドは自分の罪を受け止め、生きていた。


死ぬことは逃げだと、生きて罪を背負うのだと、自分のした過ちを見つめ、後悔してきたジェイドの言葉だからこそ、誰が言うよりも重い言葉となっていた。





アッシュもジェイドのことはそれとなく聞いていた。
だからアッシュもジェイドの言葉を受け止めていたのだ。



「旦那の言う通りだな…。

ルークが生きていてくれた。
それだけでも良かったと喜ぶべきなんだろう。
大事なのは、過去を悔やんで自分を責めることじゃなく、これから先…未来にまた同じ後悔をしないように考えて行動することなんだろうしな…。


これは他でもない、ルークから俺が教わったことだからな…。」
「あいつから…?」


ガイの言葉にアッシュは無意識に問い掛けていた。
ガイもアッシュの問い掛けに対して頷くと、口を開いて答えた。



「アッシュは知らないんだったな…。


昔…、ルークに俺はこう問い掛けたことがあるんだ。

『記憶をなくして辛くないか?』ってな…。
そうしたら…アイツ…こう言ったんだよ。












『過去ばっか見てても先に進めない』って…。
過去に囚われて先に進めずにいた俺には重くのしかかってくる言葉だったよ…。
ルークのあの言葉のお陰で、俺は復讐なんてやめようって思えたんだ。

アッシュ…。
ルークも後悔しながらも必死に前を向いて歩こうともがきながらも努力していた。

それはあの旅の中でもお前たちが帰って来てからも見ていただろう?」


ガイの言葉にアッシュは静かに目を閉じ、ゆっくり目を開き、言葉を発した。



「そうだな…。

後悔しただけじゃ何も変わらねぇ…。
大事なのはその先に何をするか…。
全く…その通りだな…。

貴様ら…!
もしアイツらがダアトにいなかったとしても必ず見つけ出すぞ!必ず…必ずな!」


そう言ったアッシュの瞳にもう迷いはなかった…。



「着いたらまず、情報収集だ。」
「そうだな…。」








ほどなくしてダアトに到着したアッシュたちは休みをはさむことなく、すぐに情報収集することにした。







「とりあえず…手分けするか?」
「そうね…。
その方が効率がいいと思うわ。」
「決まり…ですわね。」
「では、1時間後にここに集合することにしましょう。」
「分かった。」



それぞれが情報収集のために別行動をとることにした。














「シュリル…見て…。
奴等…、ルークの“元”仲間だろ?」
「本当ね…。
ルークの目撃情報を頼りにここまで来たのか…、それとも何か別の目的があって来たのか…。

どっちだと思う…?」
「分からない…。

でも、奴等なら居なくなったルークの居場所を知っている可能性が高いと思う。」
「私もシュークと同意見よ。


コンタクトをとった方がよさそうね…。」





シュリルの言葉にシュークも頷いた。


「でも…どうする?

さすがにあれだけの人数を相手にするのはキツいだろうし…。」
「簡単よ。

ほら…見て…。
彼等、別々に行動を始めたわ。
彼等が何をしにダアトに来たのかはあの中の誰か1人を捕まえて聞けば分かること。

…違う?」
「そうだな…!!

どいつから聞く…?」












***

「貴様ら…!!」
「また会ったな。

ルークオリジナル様。」
「俺をルークオリジナルと呼ぶな!

俺はアッシュだ。
ルークはあいつの名前だろうが!」



情報収集のために単独で行動していたアッシュの元にシュリルとシュークが姿を現した。



「そういえば、まだ自己紹介がまだだったな。

俺の名前はシューク。」
「私の名前はシュリル。

貴方に聞きたいことがあるの。」
「それはこっちのセリフだ!


貴様ら…これ以上、アイツを…ルークを苦しめるんじゃねぇッ!

ルークに何をするつもりなんだ!?」
「…何を言い出すかと思えば…、そんなことかよ…。」
「そのセリフ…そっくりそのまま、アンタたちオリジナルにお返しするわ。」
「なに…?」


アッシュはシュリルとシュークの言葉に眉を寄せて睨み付けた。



「分からないんだ?
これだからオリジナルってのはカスばっかりなんだよ!」
「どういう意味だ!?」
「アンタはルークのためだと言いながら結局はルークが1番知ってほしいことを知らなかった…。
いいえ、違うわ。
知らなかったんじゃなくて知ろうともしなかった!

周りにいるのはオリジナルばかり…そんな中、自分だけが“レプリカ”で…それだけでオリジナル共から異端の者を見るような蔑む目で見られて苦しんでいたというのに!」
「俺は…確かに、アイツの苦しみを知らなかったし、知ろうともしなかったといっても過言じゃないだろう…。

だが…後悔するだけではなく、後悔をした後に何をするかを考え、行動することが大切だということを知った。



だから俺はこれから先を間違えないように、アイツと…ルークと向き合って行くと決めたんだ!」


アッシュはそう2人に言った。
だが、2人はアッシュの想いを聞いても冷めた目を変えることなく、アッシュを見つめていた。



「だから何?
そんなことを言ったくらいでお前がルークを苦しめたことが全て帳消しになるとでも思ってるのか?」
「自惚れないでほしいわね!

ルークの居場所はアンタたち、オリジナルのところじゃないわ!
綺麗ごとばかり並べないでよ!!」



アッシュは2人を見ていて、思った。
どうして、そこまでオリジナルを忌み嫌うのか?と…。


2人をそんな風に思わせる何かがあったことは誰の目から見ても明らかだったから…━。




ルークが苦しんでいることに対しても何か強い思い入れを感じているように見えてならない。


アッシュは…、『知りたい』…。
何故か、そう思った。

ルークだけでなく、目の前にいる2人も苦しんでいるように見えたから…━。

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