09
「ルークよ、どうだ?
…分かるか?」
「はい。
しっかり見分けられます。」
「成功だな。
ならば苦しんでいる我らの仲間を助け出すために行動に移しなさい。」
「はい。
マスター…、行ってまいります。」
ルークはマスターと会話した後、踵を返して行動に移した。
その瞳は虚ろで感情を感じられないものだった。
それをシュリルとシュークは複雑な表情を浮かべて見つめていた。
マスターはそんな2人に視線を向け、口を開いた。
「シュリル、シューク…。
一応…、ルークを見張っておけ。
何かあった時に、すぐに対処出来るようにな。」
「あの…マスター…。
ルークの記憶を奪ってしまって本当に良かったのですか?」
マスターにシュリルは戸惑いの表情を浮かべながら問い掛けた。
「仕方あるまい。
あの様子ではいくら説得したところで耳を傾けることはなかっただろう。」
「でも…、記憶を無理矢理塗り替えるなんて…。
記憶は…ルークが生きて来た証でもあるのに…。」
「…同情をしていては我々の悲願が叶うことはない。
シュリル…、ルークに同情する必要はない。
ルークが我々の思うように動くように記憶を塗り替えたのだ。
お前がそのような態度では困るのだがな?」
「…はい…。」
「シュリル、とにかく行こう!
マスターはルークの行動を見張るようにとおっしゃっている。」
「えぇ…。
分かったわ…。」
ルークの後を追いかけようと足を進めたシュークにマスターは声を掛けた。
「シューク、…お前の判断でお前の力をルークに使うことを許可する。
もし、我々のことが万が一、ルークから漏れそうになった場合は…。
分かっているな?」
「分かりました。」
マスターの言葉に頷くと、シュリルとシュークは今度こそルークを追いかけるために足を進めた。
***
「シュリル、どうしてマスターにあんなことを言ったんだ?」
「あんなこと?」
「記憶を無理矢理塗り替えるなんてとか…。
あれじゃ、マスターのやっていることは間違ってるって言ってるようなモノじゃないか。」
「…ねぇ、シュークはルークを見ていて何も感じなかった?」
「……何を…?」
シュリルの言葉の意味が分からないとシュークは首を傾げた。
「あんなに苦しんでいたのに…ルークは逃げずに立ち向かおうとしていたわ。
だから、私…ルークを見ていて思ったの…。
私達は結局…逃げているだけなんじゃないかって…。
あの子も最後まで逃げな…、」
「やめろ!その話は…しないでくれ…!
それに…、俺は…俺達は…頑張って来たじゃないか…。
必死に…頑張って来た…。
でも、オリジナルたちは…それを理解しようともしない!
だから復讐してやるんだ!」
シュリルの言葉にシュークは顔を歪ませながら叫ぶように言った。
「…シューク…。」
「俺達は逃げているわけじゃない!
…とにかく…早くルークの後を追いかけるよ!」
「えぇ…。」
ルークを追いかける2人の顔には迷いがあった。
それをお互いに口にすることもなく、2人はルークを追いかけていった…━。
***
『ルークらしき人物の目撃情報があった。』
翌日、アッシュたちの元に届けられたのは驚くべき情報だった。
その知らせを聞いたアッシュたちは急いで、ピオニーの元へと向かった。
ルークは無事に逃げ出すことが出来たのだと、そこにいる誰もがそう思った。
ピオニー陛下の話を聞くまでは…━。
「…どういうことだ…?」
「言った通りの意味だ。」
訝しげな表情を浮かべながら問い掛けたアッシュの言葉にピオニーも曇ったままの表情を変えることなく、そう言った。
「…つまり…、ルークはレプリカたちを捜して、そのレプリカと共に忽然と姿を消すと…。
そういうことですか?」
「…あぁ…。
キムラスカ王国からも同じような報告を受けている。
そして、ルークの近くにはいつも金髪の2人組がそばにいるという話も聞いている。」
「シュリルとシューク…だな…。」
「…でも…、どうしてルークはレプリカを捜して見つけた後に一緒に姿を消しているのかしら?」
ティアが呟いた疑問にナタリアも賛同するように頷きながら口を開いた。
「…そうですわね…。
それに…、見た目ではオリジナルもレプリカも変わりはありませんわ。
何故、レプリカだけを連れて行くことが出来るのか不思議でなりませんわ。」
ナタリアの言う疑問も最もだ。
いくつかの音素でできているオリジナルの身体とは違い、レプリカは全て第七音素でできている。
だが、見た目だけではそれを区別するのは難しいといえる。
ピオニーの話を聞く限りでルークはそれを見分けてレプリカと姿を消しているという。
ルークにレプリカとオリジナルを見分ける能力があったなんて話は聞いたこともない。
それでもルークはレプリカだけを一緒に連れてどこかへ消えているのだ。
疑問に思わない方がおかしい。
「…確かに…、俺達の知らない何かが起きているのかもしれないが…。
ルークが見つかったんだったら一刻も早く、俺達はルークのところに行って助け出さなければいけないんじゃないか?」
「ガイの言う通りだな。
もしかしたらレプリカは…、いや…ルークは、あの金髪の2人がそばにいて逃げたくても逃げられないのかもしれないからな…。
ワケを聞くのはあいつを見つけて助けてからでも遅くはねぇはずだ。」
ガイの言葉の後にアッシュも続くように口を開いた。
今は浮かんだ疑問について考えるよりも、ルークのいるという場所に向かって助けてやらなければならないのではないかと、ガイとアッシュはそろって口にした。
「…そうだね。
みんな、早くルークのところに向かおうよ!
こうしてる間にもルークが姿を消しちゃうかもしれないんだから!」
アニスの言葉に、アッシュたちも頷いた。
「ピオニー陛下、ルークの目撃情報が最後にあったのはどこですか?」
「…ダアトだ。
今朝、ルークの姿をダアトで目撃したとの情報が入ってきた。」
「…ダアト!?」
思いもよらない場所に全員が驚いた表情を浮かべた。
「…とにかく…ダアトへ急ぐぞ!」
アッシュはここにいる時間も惜しいと、踵を返して立ち去った。
その後をガイたちも追うように駆け出した。
最後に残ったジェイドは悲しげな表情を浮かべながらピオニーに言った。
「…ルークはさらわれた先で何かされていると考えた方がよさそうですね…。」
「そうだな…。
今までなかった力があるということは何かをされたと考えた方がつじつまがあう…。
まだ何をされたかは分からないがな…。
…ジェイド、警戒しておいた方がいいだろう。」
「そうですね。
では、私もダアトに行ってきます。」
「…ジェイド!!」
踵を返したジェイドをピオニーが名前を呼んで引き止めた。
「…ルークを…頼む…。」
ピオニーの言葉にジェイドも一瞬、目を見開いたが、すぐに笑顔を浮かべて言葉を発した。
「分かっています。」
そう言うと、ジェイドは今度こそアッシュたちを追いかけるために駆け出した。
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