大切だから





「おれ…、最低なんだ…。
やっぱり生きてる価値なんてないんだ…。」



シェリアに手を引かれるまま歩みを進めていたルークはそう呟いた。
小さな呟きだったが、シェリアがそれを聞き逃すことはなかった。
シェリアは途中で足を止め、床に膝をつき、俯くルークの手を握り…顔を見つめながら口を開いた。



「ルーク、よく聞いて。
私は…いいえ、私たちはルークが生きていてくれて良かったと心から思っているわ。
そしてルークと出会えて本当に良かったと心から思っているわ。」
「それは…シェリアたちが優しいからそう言ってくれてるんだろ…。」
「私たちは同情でルークと一緒にいるわけじゃないわ。
ルークのことが必要だから一緒にいるの。
私たちのことを信じて頑張ってくれたルークのことが大切なの。
大好きなのよ。」



そう言ってシェリアはルークのことを抱き締めた。
ルークはシェリアの肩に顔を埋めて声を押し殺して泣いていた。
まだ7つの子供が声を押し殺して泣く姿はあまりに痛々しくて、シェリアは少しでも気持ちが伝わればいいとルークの背中を撫で続けた。



「ルーク…っっ!!」



どのくらいそうしていたのだろう?
アスベルのルークの呼ぶ声を聞いたシェリアはルークのことを抱き締めたまま声のした方へ視線を向けた。



「シェリア、ルークは一体どうしたんだ?」
「…実は…。」



視線を向ければ、そこにはルークの元同行者の相手をしているマリク以外の全員が立っていた。
その場にいる誰もがルークを心配そうに見つめていて、シェリアは食堂であった出来事について説明した。

そして話を聞くうちにアスベルたちの表情はみるみる怒りに染まっていった。
シェリアから話を聞いたアスベルはギュっと拳を握った後、食堂の方へと駆け出した。



「兄さん、待ってください。」



だが、それはヒューバートに腕を掴まれ、止められた。
ヒューバートに止められたアスベルは不機嫌そうに眉を寄せ、ヒューバートを睨むように見ながら口を開いた。



「ヒューバート!どうして止めるんだ!?」
「少しは落ち着いてください。」
「落ち着け…?
落ち着けるわけないだろう!!
ルークの気持ちも考えずに罵倒するしか出来ない相手に落ち着いて話をしろというのが無理な話だ!」
「ここにいるのはルークの元同行者だけではないんですよ?
関係のない人たちまで巻き込むつもりですか?
今の兄さんなら抜刀しかねないでしょう。」
「……ルークは俺にとって大切な存在だ。
大切な仲間を俺は守りたいんだ。
……ラムダだって『愚か者どもを今すぐ消し去ってやろうか?』って言ってる。
俺もラムダも怒りがおさまらないんだ!」
「兄さん。
僕もラムダの言う通り、人をけなすことしか出来ないような人のことを許せないという気持ちもあります。
本心を語るなら、僕だって抹殺したいくらいですよ。
ただ…、それをすることだけがルークを守ることに繋がるとは限らないのではないですか?
…傷ついたルークの心を癒してあげること。
それは僕たちにしか出来ないことなんじゃないですか?」
「………。」



ヒューバートの言葉にアスベルは押し黙った。
シェリアに抱き締められているルークの方を見れば、声を押し殺しながら泣いていて、その体は絶えず震え続けていた。
それを見たアスベルは精神を落ち着かせるように目を閉じて深呼吸をしたあと、ルークの肩をそっと撫でた。



「でも、教官…可哀想…。
あの人たちの相手をしてるんでしょう?」
「…兄さん、ルークのこと…頼んでもいいですか?」
「…あぁ…。」



ソフィがマリクに同情の念を抱く様子を見ていたヒューバートはため息をついたあと、ルークのことをアスベルに頼んだ。
完全に納得した様子ではないにしろ、了承の意を示したアスベルにヒューバートは「あの人たちの相手は相当骨が折れる仕事だと思いますので迎えに行ってきます。」と言うと、食堂の方へと歩みを進めた。




ヒューバートが食堂に向かえば、あまりにも自分勝手な言葉を放つルークの元同行者たちの言葉が耳に入った。
マリクの背中が呆れ果てているように、見えるのは決して気のせいではないだろう。

ヒューバートはアスベルのことを止めて良かったと心から思った。
元同行者たちの言葉を聞いていたらアスベルは間違いなく、彼らに刃を向けていただろう。
大切な人を守ろうという意志が強いアスベルのことだ。
家族のように大切に思っているルークのことを罵倒する彼らのことを許せるはずがない。

そんなことを考えながらヒューバートはルークを守るためとはいえ、貧乏クジをひいたマリクに、助け船をよこした。

そんな猿以下の人たちと会話するだけムダだと、そう言えば元同行者たちは怒りに満ちた表情を向けてきた。
だが、そんな表情をされても痛くも痒くもない。


マリクもルークのことを本当に大切にしているから。
さきほどのように余計な知識を与えたとはいえ、ルークと再会する前はルークに教えたら喜びそうな知識を得るためにいろいろと情報を集めていた。
だからこそ、貧乏クジを引くと分かっていて彼らの相手をすることを、選んだのだと思うから。

それぞれがルークのことを大切に思っている分、ルークのことを悪者にしたてあげることしか言わない彼らの発言にはヘドが出そうなくらいに嫌悪感を抱くものだった。

それが彼らを見る目に表れてしまったのは仕方がないことだ。
何も言えず言葉を失う彼らを放置してヒューバートはマリクと共にルークたちの元へと向かった。

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