強く生きたい



「ヴァン師匠!」



坑道の奥でヴァンを見つけたルークは嬉しそうに駆け寄った。



「ルーク。
無事だったか。」
「はい!ご心配をおかけしました。」
「ルーク。
これからお前は英雄になる。
私についてきなさい。」
「あ、あの…っ!
ヴァン師匠!」
「…どうした、ルーク?」



更に奥へ進むよう、促したヴァン。
ルークは慌てて引き止めるように声をあげた。
引き止められたヴァンはルークの方を振り返った。



「あの…アクゼリュスの人達は苦しんでいます。」
「そうだ。
だからこそ、お前が助けるのだ。」
「だけど、今にも死んでしまいそうな人達がたくさんいるのに…避難させなくて本当に大丈夫なんですか?」
「………バチカルで言ったはずだが、預言通りにするとアクゼリュスの住民は救えない。」
「だったら…っ!
せめて身動きがとれない人だけでも助けてからにした方が…!」
「…………ルーク。
お前は私の言うことに従っていればいいのだ。」
「……師匠…。
師匠は苦しんでる人がいたら助けてあげたいとは思わないんですか?
俺は…自分にできることなんて大したことはないと思うけど…でも、あんなに苦しんでる人がいるなら放っておくことなんて出来ないんです!
師匠もそうじゃないんですか?」
「……そうか…。」



ルークの言葉にヴァンは静かに目を閉じ、ぽつりとそう呟いた。



「師匠…?」



ヴァンの纏う空気が冷たくなったのを感じたルークは少し怯えた様子でヴァンを見つめた。



「…どこの誰かは知らんが、余計な知識を与えたらしいな。」
「師…匠…?」
「人形の分際で私に意見するとはな。」
「あ、あの…師匠…?」



纏う空気がどんどん冷たくなっていくヴァンにルークは戸惑いに瞳を揺らした。



━━━パンッ



そのあとに響いた渇いた音。
頬を叩かれたのだと気付いたのは、ジンとした痛みがしてからだった。



「師匠…?」
「お前は私の言うことだけに従っていればいい。」
「でも…!」
「あくまでも私に意見するか。
……ならば、無理矢理にでも従わせるまでだ。」
「いや…だ…。」



目の前にいるのは、ルークが師と呼び、尊敬しているはずの人なのに、言葉や纏っている空気はまるで別人で、ルークは恐怖を覚えた。



「…師匠…?
どうしたんですか?
今日は…なんか…変だ…!」
「…このあと死ぬレプリカごときに優しい師を演じる必要はない。」
「れぷりか…?」
「さあ、私に従え。
“愚かなレプリカルーク”」
「……………っ!?」



ただ混乱するルークはヴァンが“愚かなレプリカルーク”と言った瞬間、自分の意思が奪われていくような感覚に襲われた。


直感で感じた。
『このままではまずい』と。

だが、自分の意思を奪っていく感覚は強くなるばかりでルークは苦しそうに眉を寄せ、膝をついた。



「…はっ、はぁ…っ!
いや…だ…っ!やめ…て…くれ…っ!」
「ほう?
レプリカルークの分際で私の暗示に逆らうか。」



苦しそうに膝をつき、頭を抱えるルークをヴァンは冷たく見下ろした。
だが、苦しみから目を閉じるルークはそれに気付くことはなかった。



『…我はずっと独りだった。
我に生きるよう願い、死んだ者もいた。
だが、我にとって生きるということは独りなのだとしか思えなかった。
だが、アスベルが…あのお人好しが我に言った。
世界を一緒に見よう、と。あの日から、我は独りではなくなった。
ルーク。
お前も昔は我と同じで独りだったのかもしれぬ。
だが、今は違う。
……わかるな?』



いつだったか、ラムダがそう言っていた。
その前に『我とお前は似ている。』と言われたこともあった。
だけど、俺もラムダもアスベルたちに出会えたから、独りじゃなくなった。

独りの苦しみから救ってもらえた分、強く生きたいと思えた。


久しぶりに会ってもみんなは一緒にどうしたらいいのかを考えてくれた。

再会した時、心があたたかくなった。
だから、負けたくないと思った。



「師…匠…。
おれ…つよく…いきたい…。
まけたく…ない…!」
「ここで死ぬレプリカに生を望む必要はない。
私に逆らおうとも、無駄なことだ。
…お前ごときに割く時間はない。
私に従え。“レプリカルーク”」
「…っ、あぁぁぁぁぁぁあああああああーーーっ!!」



ヴァンがルークの頭に手を翳しながら“レプリカルーク”と言った途端に強い頭痛に襲われ、ルークは悲痛な叫び声をあげた。




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