交わした約束




「そうじゃないんだ!
…ただ、今まで信じてくれた人なんていなかったから…。」
「アスベルたちは、ウソをついたりしない。
だから、ラムダって奴がいるってのも、ウソじゃないって思ったんだ。」
「ルーク…、ありがとう…。
………ラムダ。」



まっすぐアスベルの顔を見つめながら信じていると言ったルークにアスベルは嬉しそうに笑った。
そして、そっと目を閉じて意識を集中した。



「アスベル?」
「…我はアスベルではない。ラムダだ。」
「あ!話し方が変わった!俺はルーク!よろしくな!」
「知っている。
……お前も相当なお人好しだな。
我のことをいとも簡単に信じるとは…。」
「なんだよ、ラムダも疑ってほしかったのか?」
「…今まで、こうも簡単に我のことを信じた者など存在しなかった。
故に、あっさり信じたお前に驚いただけだ。」
「…ラムダって変な話し方するよな?わざとか?」
「我の話し方は元々こうだ。
我のことをバカにしているのか?」
「それよりも!
ラムダはさ、アスベルたちとどう出会ったんだ?」
「いきなり話を変えるな!」
「なんだよ!細かいこと気にすんなって!」
「細かくはない!」
「それよりさ!出会ったきっかけを聞かせてくれよ!」
「…………その期待に満ちた眼差しを向けるのはやめろ。」
「いいからさ、早く聞かせてくれよっ!」
「…ふふっ。
ラムダとあっさり仲良くなったわね、ルーク。」
「いきなり話し方が変わったら戸惑って上手く話せない人たちが多いもんねー。」
「ルークはね、すごく優しいんだよ。」
「そうだね。
これから先、ラムダもルークともっと仲良くなりそうだね。」
「うん。」



目の前で楽しそうに会話を交わすラムダとルークに他のメンバーは目を細めて笑った。


だが…、アスベルたちは忘れてしまっていた。
ルークとの別れが近付いていることを。
自分達はあくまでも、一時的に雇われただけだったのだと。




***



「…え…?」
「…ごめん、ルーク…。」
「ちょっと待てよ…。
だって…、アスベルたちはずっとここにいるんじゃなかったのかよ…?」



ラムダのことを打ち明けてから数日後、アスベルたちはファブレ公爵から告げられた話をルークに伝えた。
いつも屈託のない笑顔を浮かべているルークの表情が今は強い戸惑いに揺れていた。



「私たちは元々、一時的に護衛として雇われた身だったの。
…朝、公爵様から今日限りで護衛の任を降りるように言われたわ。」
「なんで…だって…そんな…。」
「僕たちも失念していました。
僕たちは雇われた身であることを…忘れていたんです。」
「…ルークとお別れなんて…悲しい…。」
「ウソだ…。
俺は…アスベルたちと離れたくない!
アスベルたちと一緒にいたい!」
「ルーク…。」



今にも泣きそうに表情を歪めるルークにアスベルたちも表情を歪めた。



「アスベルたちは比べなかった!
バカにしなかった!
冷たい目で見なかった!
だから、俺…アスベルたちがいてくれるなら、もっといろいろ頑張れるって思ったのに…何でいなくなるんだよ…。」
「…ならば、ルーク。
我らと約束を交わそう。」
「ラムダ!?」
「いつの間に!?」



嫌だ、と頭を振り続けるルークにいつの間に代わったのかラムダがルークにそう言った。



「やく、そく…?」
「…我もアスベルと会うまでは独りだった。
だが、このお人好しが我の手を握ってくれた。
手を取るのを躊躇う我の手を握ってくれた。
お前は我らと離れたあと、昔の我と同じように孤独と戦わねばならぬだろう。
ここに存在する人間たちは“ルーク”を見ていないのは明白だからな。
だから、我らと約束を交わそう。」
「どんな…約束…?」
「ルーク。
俺たちは離れていても友達だ。」



途中でラムダからアスベルへと代わり、アスベルはルークの手を握りながら友達でいようと告げた。



「とも…だち…?」
「ああ。
ラムダもルークと別れるのが悲しいんだ。
だから、約束を交わそうって言ったんだ。」



アスベルとラムダはルークに離れていても変わらず友達だと告げた。



「今は外に出られないかもしれない。
だけど、ルークが外に出られるようになったら、一緒にいろんなところを旅しよう。」
「…旅を…?」
「ああ。
楽しいことも悲しいことも一緒に経験しよう。
それまでは離ればなれになるけど、だけど離れていても友達だ。」
「…約束…。
うん…、約束…。」
「…ルーク、抱きついてもいいかな?!」
「…パスカル。
だから指をわきわきしながら言わないの!!」
「パスカル…。」
「わわっ!
ルークが自分から抱きついてきたーっ!
見て見てーっ!」



抱きつこうと指をわきわきしながら近付くパスカルに、今までアスベルやヒューバートの後ろに隠れていたルークが自分からパスカルに抱きついた。
抱きつかれたパスカルは歓喜の声をあげた。



「バナナパイ、バナナパイってうるさかったけど、楽しかった。」
「ルーク…!!」
「ヒューバートは、難しいことを分かりやすく教えてくれた。
シェリアは…姉上のような母上のような…優しい存在だった。」
「ルーク…。
僕も弟ができたみたいで楽しかったです。
次に会った時は、またルークの知らないことをもっと分かりやすく教えられるように勉強しておきます。」
「私も今度会った時はルークの好きなもの、何でも作るわ。
だから、何がいいか考えておいてね。」



パスカルに抱きついていたルークは、静かに離れたあと、ヒューバートとシェリアに向かって言えば、ヒューバートとシェリアはルークの手をそっと握りながら次の約束を交わした。



「教官は豆知識みたいなのを教えてくれて、じい様みたいだった。
リチャードは剣の稽古にいつも嫌な顔しないで俺の気のすむまで付き合ってくれた。」
「…じい様、ってのはちょっと引っ掛かるものがあるが、俺もルークと過ごした時間はとても有意義だった。
次はもっといろんな豆知識を教えてやる。」
「ルーク。
君は筋がとてもいい。
基礎をもっとしっかりすればもっと強くなれる。
次は基礎を越えたところを教えられるようにお互いに剣技に磨きをかけておこう。」



マリクとリチャードの言葉にルークは俯いたまま頷いた。



「ルーク。
私と一緒に植えた花のこと、よろしくね。
次に会った時はまた新しい種を植えようね。」
「うん…。
ソフィと一緒に育てた花、大切にする。」



瞳を潤ませるルークに誰もが別れを惜しんだ。
今にも泣きそうなルークにアスベルはゆっくりと近付き、そっと頭を撫でた。



「約束だ、ルーク。
俺たち1人1人と交わした約束を絶対に忘れないでくれ。
俺たちも絶対に忘れない。
それだけじゃない。
俺たちは何があっても友達で…仲間だ。」
「うん…。
絶対に…また会うんだからな!約束…忘れたら絶対に許さないからな!」
「約束だ、ルーク。」



幼い頃に出会ったのは、かけがえのない仲間。
ルークはアスベルたちとまた出会える日が来るのを信じて、箱庭の中の生活に耐え続けた。


そしてその数年後…、叶うことになることをまだ知らなかった。


END

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