忘れえぬ出会い




俺たちがルークと出会ったのは今から3年前。
資金稼ぎのために闘技場に出て優勝した腕を買われ、ファブレ公爵の一人息子…、ルークを公務で騎士団が留守にする間、護衛をしてほしいとファブレ公爵から依頼されたからだった。

俺たちがそこで出会ったのは1人で寂しさと戦う小さな子供だった。




***



「はじめまして、ルーク様。
本日から1ヶ月間、ルーク様の護衛をさせていただくことになりました、アスベル・ラントと申します。」
「…………。」
「ルーク様?」
「どうせお前も…。」
「…どうかいたしましたか?」
「…なんでもないっ!」
「私たちも自己紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」
「…勝手にしろ。」



最初は手負いの獣のように強く警戒していたルーク。
だけど分からないことを教えたり、勉強を一緒にしたり、共に時を過ごすうちに少しずつルークはアスベルたちに笑顔を見せてくれるようになった。

心を開いてくれたルークはある日のこと、自室でアスベルたちに疑問に思っていたことを問いかけた。



「なあ…、アスベルたちは、どうして『なんでこんなことも分からないんだ?』って怒らないんだ?」
「ルーク、知らないことがあるのは誰でも同じよ。
ルークは知らないことを知ろうとしているじゃない。
それなのに、何で知らないんだ、なんて言えるはずがないわ。」
「シェリアの言う通りです。
知ろうとしないような人よりずっといいと思いますよ。」
「ヒューバート!!敬語はナシって前に言っただろ!?」
「ルーク、僕は普段からこういう話し方なんです。」
「そ、そうだったっけ?」
「ルーク!ルーク!!
2人で植えた種が芽を出したよ!一緒に来て!!」
「本当か!?」
「うん!
小さいけど芽が出てるの。
一緒に見に行こう?」
「ああ!!」



慌ただしく部屋に入ってきたソフィは、以前にルークと一緒に植えた種が芽を出したと騒ぎ、それを聞いたルークはソフィと共にバタバタと部屋の外に出ていっていった。
パタン、と閉められた扉を見つめながらアスベルは静かに口を開いた。



「…知らないことを聞いたら怒られると思っているなんて…、悲しいな…。」
「アスベル、護衛をしてほしいという依頼もウソだと気付いているか?」
「そうなんですか?」
「そうみたいだよ。
その証拠に、僕たちは護衛をするためにここに来ているのに、騎士団は至るところにいるだろう?
護衛なんて必要ないくらいに。」
「それならどうして私たちを雇ったのかしら?」
「ルークの我が儘に手をやいてるから、みたいだよ。」
「そんな…。」
「我が儘、と捉えられるものではないがな。
分からないことも根気よく教えれば理解できる。
いや、むしろルークの年齢で考えれば頭もいい。
ただ、“前の”ルークができていたことが出来て当たり前だと、その考えを押し付けているだけだ。」
「…屋敷に閉じ込められ、前のルークと同じ知識を知っていて当たり前だと、その考えを押し付けられる。
…反抗したくもなるだろうね。」



リチャードが悲しそうな表情を浮かべながら言った。
今でこそ、屈託のない笑顔を見せてくれるようになったルークだが、最初は全く心を開こうとしなかった。
だが、こっちが歩み寄れば少しずつ心を開いてくれた。
思いを伝えれば理解してくれた。



だからこそ…、アスベルたちは思った。



「俺たちは、どんな時もルークの味方でいよう。」



アスベルの言葉にヒューバートたちは頷いた。



「…それと、ルークにラムダのことを話そうと思うんだ。」
「え…?
でも…、今まで信じてくれた人なんて…。」
「ルークなら信じてくれる。」
「アスベル…。
そうね…。
ルークなら…、ラムダのことを信じて…、きっと受け入れてくれるわよね。」
「ああ。」

「アスベルーっ!
みんなーっ!
見てみろよ!!本当に芽が出てるんだぜ!!
俺とソフィが植えた種なんだぜ!」
「ルークが呼んでるわよ、アスベル。」
「なんか、ルークってアスベルに一番懐いてるよねー。
あたしなんて、ルークに抱きつこうとしても毎回逃げられるのに〜!!」
「…パスカルは抱きつこうとする時の動きが怖いのよ。」
「僕もシェリアと同意見ですね。
あんな風に指をわきわきしながら近寄ってきたら、誰だって逃げますよ。」
「むうぅー…。」

「早く来いよー!!」



窓から見えるルークはソフィと共にこちらに向かって笑顔を浮かべながら手を振っている。



「僕たちも行こう。」
「そうだな。」



ルークに呼ばれたアスベルたちは、笑顔を浮かべながらルークとソフィの元に向かった。




***



「ラムダ…?」
「そうなんだ。
俺の精神領域内にラムダっていう奴がいるんだ。
時々、体を預けたりしてるんだが、まだルークの前にラムダは出てないし、ラムダのことを話しておきたかったんだ。」



広い庭で少し遊び、日向ぼっこをするルークにアスベルはラムダのことを打ち明けた。



「ふーん…。
…そのラムダっていう奴と話は出来ないのか?」
「えっ…?」
「だから!
ラムダと話は出来ないのかって聞いてるんだっつーの!」
「信じてくれるのか?」
「疑ってほしいのかよ…?」



驚きに目を見開くアスベルにルークは不機嫌そうに口を尖らせた。
疑ってほしかったわけではない。
だが、今までラムダのことを話しても、“何をバカなことを言っているんだ”と信じてもらえないことの方が圧倒的に多かった。

だが、目の前にいるルークは疑う様子もなく、ラムダと話せるかを問いかけてきた。
それはラムダがいるのだと信じきっているからに他ならない。



「…もしかして…、からかってた…のか?」



驚き、固まるアスベルたちを見たルークはからかわれたのか不安になったようでそんな言葉をもらした。

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