非力さを嘆く前に
もう自分の非力さが原因で誰かを失うのが嫌だった。
***
「フレデリック!」
「…!
アスベル様…。」
「それ、ヒューバートの?」
「は、はい。」
“あの時”…、ソフィを失い、俺やヒューバートは重傷を負った。
だけど、俺の方は幸いにも回復が早くて何とか動き回れるくらいまでに回復していた。
動き回れるようになって、シェリアの見舞いに行き、俺とヒューバートの部屋に戻ろうとした俺の目にフレデリックがトレイを手に歩いているのが見えて、フレデリックの方に向かった。
ヒューバートの食事を持っていく最中だと知った俺は半ば強引にフレデリックからトレイを受け取り、自分が運ぶ旨を伝えた。
フレデリックも戸惑いながらも、了承してくれて、俺は再び部屋に向かって歩みを進めた。
だけど、俺は再びその歩みを止めることになる。
『いつになったら、彼を我がオズウェル家の養子として迎えられるのかハッキリとした答えがいただきたいのですが?』
以前、ラントに来ていたオズウェルという人の声と、その内容を耳にしてしまった俺は思わず立ち止まり、聞き耳を立ててしまった。
『申し訳ないが、ヒューバートはまだ満足に身動きも取れない状況です。
もう少し回復するのを待っていただきたい。』
『だが、長男の…アスベルくんと言ったか?
彼は動き回れるほどに回復しているようですな?』
『…何が言いたいのです?』
『本当はヒューバートくんを養子に出すのを躊躇っているのではないですか?
この際、アスベルくんを養子として迎えてもこちらは一向にかまいませんよ。』
「Σ……!!」
親父とオズウェルさんの会話の内容を聞いて俺は驚愕した。
ヒューバートがオズウェル家の養子になる…?
だから、ヒューバートの様子がおかしかったのだと、すぐに気付いた。
「…ヒューバート…、お前までいなくなるのか…?」
ヒューバートがオズウェル家の養子になれば、ヒューバートはここを…、ラントを離れなければいけなくなる。
それにヒューバートが大怪我を負ったのも、元を辿れば全部俺のせいだ。
なのに、ヒューバートはまた苦しまなければならないのか?
―――…それなら俺は…。
ある決意を胸に秘め、俺はヒューバートのいる部屋に向かった。
そして…、静かに寝息を立てて眠るヒューバートの近くに俺はトレイをそっと置いた。
「ヒューバート、お前は俺が守るから。」
そう言うと、アスベルは静かに部屋を退出した。
そして…数日後…、オズウェルと共にアスベルはラントを後にした。
怪我のせいでベッドの住人となっているヒューバートやシェリアには何も告げないまま…。
END
※※※
重傷を負って、ラントでもしヒューバートが療養してアスベルが先に回復していたら…なんて捏造話を書いてみました。
他サイト様で、養子にアスベルが選ばれることはあっても、自分からオズウェル家の養子になることを望む話はなかったように思うので妄想のままに書いてみました。
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