あかとらっ!







「おいッ!!

あの陰険眼鏡はどこにいやがる!?」










とある日の朝、激昂したアッシュがガイたちが泊まる宿屋に姿を現した。



アッシュがガイたちの泊まる宿屋に姿を見せたことにガイたちはひどく驚いていた。




…何故なら…。




「どうしたんだ、アッシュ。

ルークはどうした?」
「そうだよね〜。
昨日の夜からルークと2人っきりで過ごすとか言ってルークと別の宿を取ったんでしょー?」
「そうですわ、アッシュ。

年越しは2人で過ごしたいからと…、そうおっしゃっていたのではありませんの?」



年明けが近いこともあり、アッシュはルークと2人で年を越したいと、半ば強引にルークを連れていったのだ。



それが次の日に、宿屋に戻ってきたのだから、不思議に思わない方がどうかしているだろう。






「ね、ねぇ…。

アッシュ、あなたが持っているそのキャリーバッグ…何が入っているの?」





疑問に思うガイたちとは裏腹にティアの視線はアッシュが持つキャリーバッグに注がれていた。
心なしか頬が赤く染まっているようにも見える。





「……ガイ、お前はルークはどうしたと聞いてきたな?


それに、チビガキとナタリアは2人で年を越すのではないかと…そう言ったな?


だが…これで、どうやって年を越せというんだ!」







そう言いながらアッシュは右手で持っていたキャリーバッグから“あるもの”を取り出した。






「…え?」
「こ、これは一体…?」
「あわわわ!」
「…………可愛い…V」







アッシュがキャリーバッグから取り出したものを見たガイたちは驚きに目を見開いた。




…もっとも、たった1人…。
ティアだけはうっとりとした目でアッシュが持つものを見つめていたが…。










「おや?

アッシュ。
ルークと2人っきりで年を越すのではなかったのですか?」






混乱が満ちる中、まるで現れるタイミングを狙っていたかのように姿を見せたジェイド。




ジェイドが姿を見せたことに気付いたアッシュはキャリーバッグから取り出したものを脇に抱えながらジェイドの元にツカツカと近付き、怒りのままに言葉を発した。






「貴様…!
これはどういうことだ!?

分かるように説明しろ!」




怒り心頭した様子のアッシュにジェイドはわざとらしく肩を竦めながら口を開いた。




「傷つきますねぇ。

どうして、こういうことは全部私のせいなんですか?」
「貴様以外に誰がこんなふざけたことをするって言うんだ!?

今すぐ、こいつを…ルークを元に戻せ!このクズがッ!!」
「え!?

その子…、やっぱりルークなのぉ!?」
「まさか…、嘘…だろ?」
「まあ…!」
「可愛いわ…V」








ガイたちの視線の先にあるもの…、それはアッシュに抱えられる小さな朱毛の虎だった。



もしや、とは思ったがその小さな虎がルークだと信じろ、と言われても無理な話だ。





「…食事を食べていたらいきなり爆発して…、ルークが虎になりやがった!

虎になったコイツと年を越せと言うのか!?
ふざけるな!」
「別にふざけているつもりはないんですけどねぇ。

せっかく来年は虎年なんです。
どうせなら、誰かを虎にしようと考えただけです。

誰が虎になるべきか…、そんなものは考えるまでもないでしょう?」
「やっぱり貴様の仕業だったか!

早く戻せ!
こんなふざけたこと…許されると思っているのか!?」
「アッシュ、誤解しているようですから、言っておきますが、私はいつでも真剣です。」
「もっとタチが悪いじゃねぇか!このクズ眼鏡がッ!
真剣な表情を浮かべて何、ふざけたことをぬかしてやがる!」
「くあ〜〜…。」






ギャイギャイ騒いでいたアッシュは脇に抱えているものが声を発したことで、視線をそちらへ向けた。




そこには大きなあくびをする小さな朱い虎。
そう…、今の今までルークはずっと眠っていたのだ。
アッシュの怒号にようやく目を覚ましたのだろう。


きゅるんとした瞳で仲間たちを見た後、口を開いた。


「……きゅー!」
「か、か…可愛い…V

も、もう…ダメ…。」
「はうわッ!?

ティアが…倒れたぁ!!

でも…これだけ可愛いなら倒れても当たり前だよねー…V」
「本当に…一度抱きしめてしまったら離したくなくなるような可愛らしさですわね…。」




きゅるんとした瞳に見つめられた女性陣はメロメロにされてしまったようだ。
ティアにいたっては倒れる始末。





「見ての通り、今のルークには自分の意識はない。


普通の虎の子供と変わりはねェ…。」
「アッシュ!」
「…なんだ?」






今まで、ひたすら沈黙を守っていたガイがようやく口を開き、アッシュの名前を呼んだ。
嫌な予感を感じながらもアッシュはガイの方に視線を向け、先の言葉を促した。




「俺にルークをくれ!」
「Σ…なッ!?

な、何をふざけたことをぬかしてやがる!
誰がやるか!」
「アッシュにルークの世話が出来るのか!?

出来るはずがないだろう!
怒鳴ってビビらせて泣かせるのがオチだ!」
「うるせぇッ!

ルークは俺のものだ!
お前なんかにくれてやるか!」
「ルークの世話に1番慣れてるのは俺だ!

俺がルークをもらった方が幸せに決まってるだろう!」
「勝手にコイツの幸せを決めるな!
「ルークは俺のものだ!」」
「そんなふざけたこと…いつ決めた!?

たった今、決めたことだろうが!」
「バカだな、アッシュ。

そんなもの、ルークが生まれた時からに決まってるだろう。

7年前からルークはすでに俺のもの。
売約済みってわけだ。」
「それは貴様が勝手に決めたことだろうが!」
「だったらルークに聞いてみようじゃないか!」
「フン…!
答えは分かりきってるがな!」







「…なんか…、すごい会話だよね…。」
「親権争いなのか、恋人の取り合いなのか…、よく分からない言い争いね…。」
「まあ、ティア!

目を覚ましたんですの?」
「えぇ!

あんなに可愛いルークを見ないで気絶したままだなんて…もったいないわ!」
「皆さんが楽しそうで何よりです♪」




「ルークが俺を選ぶのは当たり前の話だが、傷が深くならねぇように先に言っておく!

残念だったな!」
「アッシュ、そのセリフ…、そっくりそのまま返すぜ。

ルークがアッシュを選ぶなんて…勘違いも甚だしいぞ」
「何だとッ!?

じゃあ見てろ!」
「ああ!余裕で見ているさ!」
「ルーク!お前は俺とガイ、どっちと一緒にいたい?

お前の正直な気持ちを聞かせろ!」



険悪なムードが漂う中、アッシュはルークにそう問いかけた。
その表情は自信に満ち溢れていた。





「きゅ?

…うきゅう…。」




アッシュの言葉の意味を理解出来ないのか、ルークは首を傾げた。



「……!!

うきゅー…!」



首を傾げたルークはあるものを見て、目をキラキラと輝かせた。






「みゅうぅうぅっ!

ご主人様ー!やめてくださいですのー!」
「うがぁ♪」
「みゅみゅみゅみゅー!」






ルークが興味を示したもの…、それはミュウだった。







…正確にはミュウ、というよりミュウの耳に興味を示したようでミュウの耳を猫パンチならぬ、虎パンチをして遊んでいた。




「…ミュウのゆらゆら揺れる耳がルークの心を捕えてしまったみたいね。」
「楽しそうですわね」
「ミュウは必死に逃げてるけどねー…。」




「「……………。」」






楽しそうにミュウを追いかけまわすルークをアッシュとガイは複雑な心境で見つめていた。

そんなアッシュとガイの肩をジェイドはポンと叩き、笑顔を浮かべながら口を開いた。




「残念でしたね、2人とも。

ルークの1番はどうやらミュウのようですね。」
「…こんな…こんなはずじゃ…!」
「あの…ブタザルが…!」






ジェイドの言葉にガイはショックを受け…跪ずき、アッシュはミュウに嫉妬しているのか、鬼のような形相を浮かべて睨みつけていた。





「アッシュ、ルークは年が明けて少ししたら元に戻ります。

そのあと、ゆっくり2人で過ごせばいいと思いますよ。
今のルークはミュウに夢中ですからね。
無理矢理ミュウと離したら…きっと嫌われますよ?」
「……チッ!

勝手にしろ!」




ジェイドの提案にアッシュは苛立ちを隠すことなく、そう吐き捨てた。





「ういーんぐ!ですのー!」
「うむぅ…!


うがぁ!うぅー!」





ジェイドの視線の先にいるのは、ミュウウイングで宙に浮かび、虎パンチをするルークから逃げるミュウとジャンプしながらミュウを追いかけるルークの姿があった。

ルークを見つめるジェイドの元にアニスが向かい、その隣に立つと、口を開いた。




「大佐ー、もしかして私達がルークと年を越したかったって言ったから…、あんなことしたんですかぁ?」
「はて、何の話ですか?」
「アッシュがルークを連れてった後に私達が言ってたのを大佐は聞いてたじゃないですかー!」







そう…、アニスたちは仲間全員で年越しを迎えられると喜んでいたので、アッシュがルークを強引に連れて行ってしまった後、落胆していたのだ。



『初めてみんなで年越しを迎えるはずだったのに、ルークはアッシュと2人で年越しを迎えるんだね…。』
『仕方ないわ。

賑やかに新年を迎えたかったけど…、今更何を言っても…どうしようもないもの…。』
『アッシュから逆にルークを奪い返せば済む話ではありませんの?』
『そんなことしたらアッシュの秘奥義を食らうことになるぞ…。』







そんな会話をジェイドは部屋の隅で紅茶を飲みながら聞いていた。





だからアニスは思った。

きっとアッシュも含めた全員で年越しを迎えるためにルークを虎にしたのだと。



「うきゅーっ!」
「はうあっ!

やめてよ、ルークー!」
「おや、今度はアニスのツインテールに興味を示したようですねぇ。」
「アニスちゃんの髪がぁっ!」
「…私も…ポニーテールにしたら…興味を示してくれるかしら?」
「わたくしは…髪が短すぎますわね…。」
「そんなこと言ってないで助けてよーっ!」





ルークに追いかけられるアニスは髪を押さえながら必死に逃げ回っていた。







ジェイドの真の企みが何かは分からないままだったが、結局アッシュとルークを含めた全員で年越しを迎えたのだった。

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