規格外なライバル

「あれ?
あそこにいるのって、シューティーじゃない?」



白の遺跡を目指して旅を続けるサトシたち。
その道中である街のポケモンセンターに立ち寄ると、ジョーイから何かを受け取って歩いていくシューティーの姿をアイリスが見つけ、声をあげた。

アイリスの視線の先を追ったサトシとデントも何かを抱えながらある部屋へと消えていくシューティーを見て、その後を追いかけた。



「シアタールーム?
へえ…。ここのポケモンセンターにはシアタールームなんて部屋があるんだね。」
「シアタールームに入ったってことは、何かを鑑賞するってことだよね?
ねえ!私たちも観てみようよ!」
「そうだね。
ここで会ったのも何かの縁だと思うしね。」
「なんか面白いものでも観るのかな?
確かに気になるよな、ピカチュウ。」
「ピーカァ。」



シューティーが何を観るつもりでシアタールームへ向かったのか、気になったサトシたちはその後を追いかけた。



「シューティー!!」
「サトシ…?また君か…。
本当によく会うな。」
「シューティー、シアタールームで何を観るつもりなの?」
「…イッシュ地方以外で開催されたリーグ戦のビデオがここで観られるって聞いて、ここに来たんだ。」
「……え?」



シューティーの言葉にサトシは固まった。



「イッシュ地方以外で開催されたリーグ戦!?
なんか、面白そう!!」
「僕たちも一緒に鑑賞してもいいかな?」
「別に観るのを邪魔されなければ問題はないですけど…。」
「あ、…でも…、別に観なくても…。」
「別に観たくないなら観なければいいでしょ!?
私とデントは観るつもりだから、観たくないならサトシはポケモンたちと特訓でもしてたら?」
「………デントも観るのか…?」
「え?うん。
そのつもりだけど…。」
「…………俺…、散歩に行ってくる…。」



リーグ戦のビデオを鑑賞すると知ったサトシは、そのあと、突然挙動不審になり…、まるで逃げるようにポケモンセンターから出て行った。



「なんなんだ…?」
「バトル好きのサトシなら、喜んで観ると思ったんだけどね?」
「とにかく、観てみようよ!
まずは…セキエイ大会って大会からにしようよ!」
「何で君が決めるんだ?
…まあ、別にいいけど…。」



アイリスに促され、シューティーは呆れながらも再生ボタンを押した。

そこに映っているものに驚かさせることに、まだ誰も気付いていなかった。




***



「サトシ!!」



ピカチュウと一緒にふらふらと散歩している途中で買ったアイスを公園にあるベンチに腰掛けながら食べているとバタバタと慌ただしく足音を立てながら近付いてきた3人に気付いたサトシ。
聞かれる内容に予想がつく分、どう話そうか迷いながらも、立ち上がった。



「サトシ!!どういうこと!?」
「僕たち、何も聞いてないよ!?
あれほどの実力があったなんて、全く知らなかったよ!」
「僕はともかく、一緒に旅をしている2人まで知らないなんておかしいじゃないか!」



予想していた通り、ビデオを見たデントたちからの追求攻撃にサトシは戸惑った。



「…君は、…あれか?
…あれほどの実力を持ちながら、あんなに強いポケモンをゲットしていながら今までのバトルにも、大舞台であるはずのポケモンリーグでも出さなかったのは、僕たちのことを見下してバカにしていたのか?」
「へっ?」
「そうでなかったら、おかしいだろう!!
あれだけの実力をもっているポケモンたちで出場していれば、きっと君が優勝していた!!
…進化して強くする。
それが、基本だと思っていた僕の考えを根底から覆されるポケモンたちも数多く存在していた。
そんなポケモンたちを出さなかったのは、見下していたからとしか思えないだろ!!」



シューティーは、怒りに震えながら、そんな言葉を返した。
アデクとのバトルで自分なりに納得して、強くなるために努力してきた。
ポケモンリーグでサトシに負けはしたが、どこかすっきりした気持ちでいたのだ。
それなのに、あのビデオを観て裏切られたような気分になった。

見下されていたのだ。
そう思ったらただ、許せなかった。



「…えっと、何を勘違いしてるのか分からないけど…、出さなかったんじゃなくて出せなかったんだけど?」
「……えっ?」
「確かに今まで、いろんな土地を旅して、いろんなポケモンと出会って、バトルしてゲットしてきた。
だけどさ、俺のポケモンたちは俺の故郷のマサラタウンの、オーキド研究所にいるんだ。」
「…それが何だと言うんだ?」
「あっ!そうか!
確か…、他の地方にいるポケモンを転送するマシンはまだ完成していないんだったね!」
「イッシュでゲットしたポケモンたちは、アララギ博士に預かってもらってるしな。」
「だったら!!
あのポケモンたちでイッシュ地方を旅したら良かったじゃないか!!」
「それだと気付けないだろ?」
「は?」



転送するマシンがないなら、最初からそのポケモンで旅をすればもっと楽に旅が出来たはずだとシューティーが言えば、サトシは首を左右に振り、そんな言葉を返した。
その言葉の意味をまるで理解できないシューティーは思わず眉を寄せた。



「俺も、最初は今までゲットしたポケモンと新しい土地を旅してたこともあったよ。
だけど、その途中でそれだと新しい発見も出来ないってことに気付いたし、新しい土地では新しい気持ちで旅をしたかったんだ。
今まで、どんな成績を残したとか関係なく、新しい土地では新しく出会ったポケモンたちと一緒に強くなって、一緒にいろんな発見をして…。
新しい気持ちで旅をするために俺はいつもピカチュウだけ連れて、新しい土地を旅してきたんだ。
別にイッシュ地方から始まったことじゃないし、なんかもうクセみたいなものになってるしな。」
「ピカピカァ。」
「なんでピカチュウなんだ?
君は…初心者用のポケモンたちも連れていることから察するに新しい土地でもその地方のポケモンを博士からもらっているんだろう?
最初にどの初心者用のポケモンをもらったのかまでは知らないけど…どうしていつもピカチュウなんだ?」
「どうしても、なにも…。
ピカチュウは俺が初めてもらったポケモンだからだよ。
ヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネが俺の地方の初心者用のポケモンなんだけど、俺が寝坊して…ピカチュウをもらったんだよ。」



今となってみたら、寝坊して良かったって思ってるけどな!とピカチュウに笑いかけるサトシ。
だとするなら、納得できないことだってある。



「でも!サトシはヒトカゲ…リザードンと、フシギダネとゼニガメを、もってたじゃない!!
3体ももらったってこと!?
それに!他の地方の初心者用のポケモンもたくさんもらってるじゃない!!」
「もらったんじゃなくて、ゲットしたんだよ。
初心者用のポケモンたちは全部、俺が旅の途中でゲットしたポケモンたちだよ。」
「うっそ…!!」



サトシの言葉にアイリスはあんぐりした。
初心者用のポケモンはその地方の博士からもらう以外にゲットするしかないのだ。
初心者用のポケモンとはいえ、ゲットするどころか出会える確率は限りなく低い。



「…そういえば、イッシュの初心者用のポケモン…、ミジュマル、ツタージャ、ポカブも全部、ゲットしたんだったね。
…ミジュマルに関してはサトシにゲットしてもらいたくてストーカー…じゃなくて、ついてきたみたいだったけど。」
「そう。
あんなカンジで、他の地方でも出会えたんだよ。」



不思議だよなー、と言って笑うサトシ。
だが、そんなあっさり語られるような簡単な話ではない。
それを簡単に言ってのけるのはサトシだからだろうか。



「…ゲットしたポケモンで旅をした方がそのポケモンのレベルだってもっとあげられるのに、君は自ら面倒な方を選んだのか?
どう、考えたって強いポケモンを厳選して旅をした方が楽じゃないか。」
「……俺の夢はポケモンマスターになることだ。」
「そんなこと、知ってるよ。
何が言いたいんだ?」
「ポケモンマスターになるのは簡単じゃないし、なるためには大変でも、いろんな経験をしておくのってすごく大事だと思うんだ。
新しい気持ちで旅をしたいってのもあるし、いろんな経験をするには、この方法が一番なんじゃないかって思ってる。
これは、俺の考えだから、みんなに押し付けるつもりはないけど…、でもそのおかげでいろんな発見も経験も出来た。
無駄なことなんて1つもなかったよ。」



そう言って穏やかに笑うサトシからは、今までに感じたことのない気迫を感じた。
今までの経歴を言葉にしなかったのも、ただ新しい気持ちで旅をしたかったからというだけの理由なのだと、その言葉から察することが出来た。



「…本当に君らしいよ。
…君の故郷を田舎だとバカにしたこと、今更だけど謝るよ。
田舎だろうと都会だろうと、強くなろうとするのに、そんなこと関係ない。
…君がどう思ってるか分からないけど、僕は君がライバルで本当に良かったと思ってるよ。
他の地方のライバルと、比べると僕はどうも影が薄いようだけどね。」
「影が薄い?は?」



苦笑しながらそんな言葉をこぼせば、サトシは目を瞬かせた。

そんなこと、言うまでもない。

あのシゲルという少年はイケメンに加え、研究者として今は奔走しているし、最近でいうとあのシンジというトレーナーは濃すぎる。
いろんな意味で濃すぎるのだ。

どうやっても、あんな人間にはなれない。
自分と出会う前のライバルもたくさんいたようだが、どのライバルも自分と比べたら霞んでしまうほどだ。

あれだけのライバルと出会い、戦ってきたのは、サトシのポリシーのせいなのかもしれない。



「本当に不思議なトレーナーだよ、君は。
…差し支えなければ、今までのポケモン図鑑を見せてもらってもいいか?
それだけいろんな地方を、旅をしてきたのならたくさんのポケモンと出会っているんだろう?」
「ああ!いいぜ!!」



シューティーの言葉に二つ返事で了承し、バッグの中をごそごそと漁り、いくつかのポケモン図鑑を差し出され、シューティーはそれを受け取った。

それは自分の見たこともないポケモンを知ることもいい経験になると踏んでのことだったのだが…。

シューティーと一緒にデントとアイリスもポケモン図鑑を覗き込む。
…そして、目を見開いた。



「ちょっと!!どういうこと!?
これ…伝説のポケモンたちばっかりじゃない!!」
「アルセウスといえば、この世界を創ったとさえ言われてるポケモンじゃないか!
神と呼ばれし、パルキアやディアルガ、しかもギラティナ!?」
「ミュウなんて世界一珍しいと言われるポケモンじゃないか!
ルギアにまで!?ユクシー、アグノム、エムリット、スイクン、エンテイ、ライコウ…。
ダメだ…。あげだしたらキリがない。」
「そういえば、私たちもビクティニ、レシラム、ゼクロム、キュレム、コバルオン、テラキオン、ビリジオン…、メロエッタ…ああーっ!もう!いろんなポケモンたちと、出会ってきたけど!
それってサトシがいたから!?」
「………っ!!」



図鑑に残されたデータを見ただけで十分強い衝撃を受けたシューティーだったが、アイリスの言葉に、それ以上の衝撃を受けた。
なんだそれ?
新しい土地を旅する度に、伝説、幻、神と呼ばれるポケモンと出会ってきたというのか?

いや、ちょっと待て。ダメだ。
規格外すぎる。
頭から煙が出そうな勢いだ。

だというのに。



「そんなに驚くことか?
伝説とか、幻とか呼ばれてても同じポケモンだろ?」



そう言って何てことのないように首を傾げるサトシにシューティーは改めてサトシというトレーナーが実はとんでもないトレーナーだという事実を痛感した。

自分なんかがライバルで本当にいいのか?と、ネガティブ思考になってしまっても仕方のないことなのではないか?

今までバカにしてきた自分を心底呪いたくなった。

デントとアイリスからあれやこれやと聞かれて、アワアワするサトシを見てシューティーは思った。

今のままではダメだと。
シューティーにとってのライバルはもう、サトシ以外に考えられないのだ。
だけど、今のままでは逆立ちしたって敵うまい。

まさかこれほどまでとは思いもしなかったシューティーは深いため息をついた。
そして、ピカチュウにサトシの図鑑を返したあと、僕は行くよと声をかけたが…どうやら3人には聞こえていないようだ。

とんでもないトレーナーを、ライバルにしたようだと思いながらシューティーは更なる高みを目指して旅を再開したのだった。


End
※※※

えぇー、サトシの経歴にびっくりするアイリスたちというリクエストでしたので、こうなりました。

サトシ君って実はすっごいトレーナーなのに、みんなそれを知りませんし、それを言うサトシ君じゃないので知るはずもないですよね。
だったら、こうなるやろ!となり、暴走のままに書き進めました。

普通なら、俺はこんなにたくさんの伝ポケに会ってるんだぜ!と自慢しそうなのにしないサトシくんの素敵さと言ったらもう…!!

抱き締めたくなりますよね!(やめれ)

こんな暴走駄文でよろしければお持ち帰りください!!
リクエスト、本当にありがとうございました♪

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