後悔先に立たず




「…兄さん…、どうして…?」



ヒューバートはどこか呆然とした様子で目の前に立つアスベルに向かってそう言った。



「どうして?
それを問うのか?」



ヒューバートの問いかけにアスベルは敵意を剥き出しにしながら、そんな言葉を返した。

言葉と共にアスベルはヒューバートに剣の先を向けている。



「アスベル!!
どうしてラムダを庇う!?
ラムダは世界を壊そうとしているんだぞ!?」
「アスベル!正気に戻って!!」
「ラムダを消すことが私の使命。
でも、アスベルを消すのはイヤ…。
だから、アスベル!
ラムダを何とかして自分の中から追い出して!!」



マリク、シェリア、ソフィは敵意を剥き出しにするアスベルを必死に説得していた。



「庇うのは当たり前のことだ。
俺はラムダのことを守ると決めたんだ。
これは操られているからではない、俺の意思だ。
それなのに何故、ラムダを追い出す必要がある?」
「アスベル…。
君は世界を消し去りたいのか?
ラムダを守ると決めた。
それだけの理由で世界を見捨てるというのか?」
「…それだけの理由、か。
ラムダがたった独りで悲しみと戦い、傷付いてきたのに、リチャード。
お前はそれを“それだけの理由”なんて一言で片付けるつもりか?」
「…それは…!!」
「他者に拒絶され、殺されそうになり、あげくに大切な者まで殺され…それでも自分だけが生き残った時の悲しさや悔しさ、辛さをお前は…“それだけの理由”なんて言葉で片付けるつもりなのか!?」
「アスベル…。」



リチャードの言葉はアスベルの逆鱗に触れたらしい。
剣の切っ先を向けるその手は怒りで震えていた。



『(アスベル。
代われ。我もこやつらに話がある。)』
「(ラムダ…。
でも…、お前が出たら殺される可能性だってあるんだ。
俺はお前に死んでほしくない。)」
『(我は死なぬ。
アスベル。お前が我を受け入れてくれたのだからな。
お前を残して死にはしない。)』



精神領域内で会話を交わすアスベルとラムダ。
心配そうにラムダを見つめるアスベルに対し、ラムダはアスベルを安心させるために言葉を返す。

その様子はまるで互いに依存しあっているようにも見える。

不安そうに見つめながらもアスベルは、ラムダに己の体を明け渡した。



『プロトス1。
そして、他の人間ども。
もう我らに構うな。
我はもう世界のことなどどうでもいい。
アスベルと共に在れれば、世界がどうなろうとも関係ない。
貴様らが世界を消したくはないと言うのなら、我はもう手出しはせぬ。』
「ラムダ…!!」
「そんなこと、信じられない!!それに…あなたを消すのが私の使命!!
このまま見逃すつもりはない!」
「アスベルを返して!!」
「兄さんを洗脳して、自分の手中におさめて、いい気にならないでください!」
「アスベルー!戻っておいでよー!」



自分達に構わなければ、世界を滅ぼしはしないと言ったラムダの言葉を誰も信じようとはしない。
アスベルはラムダに操られているのだと疑わないかつての仲間たちに、心が冷えていくのを感じた。

自分達が何を言おうとも、結局はラムダを殺すことしか考えていないのだと分かったからだ。

アスベルはラムダの孤独を、痛みを知った。
そして、それを一緒に背負っていきたいと思った。

独りは怖いから。
悲しいから。
苦しいから。

誰かが、そばにいてくれること、見ていてくれること、大切に思ってくれることがどれだけ必要なことか、アスベルも理解できるからこそ、ラムダの悲しみに寄り添っていたいと思ったのだ。

だが、ヒューバートたちはそうは思っていない。
ラムダは世界を滅ぼそうとする危険な敵だと思っている上に、こちらの話を聞こうともしない。

操られているからではないと言っても、その言葉自体をラムダが操って言わせていものだと思い込んでしまっている。
そんな彼らに何を言っても伝わらないだろうと思った。

現にラムダは自分が表に出てきたときに、ヒューバートたちに攻撃することだって出来たはずなのに、それをしなかった。

それはアスベルと一緒にいられるなら手出しはしないという言葉が偽りのないものだと示していたのだが、それに気付く者はいなかった。

ラムダは自分達に関わらないのなら、世界を滅ぼしはしないと言葉で伝えた。
だが、それを信じようとしないのだ。

だったらもうすることは1つだ。



「分かった。
もういい。
俺はラムダを見捨てるなんてこと、絶対にしない。
だが、ヒューバートたちはそれさえもラムダに操られ、言わされているのだと決めつけるだけだ。
そんなお前たちに言葉では何も伝わりはしないことをラムダとの会話を聞いていて理解した。
だったら、力でねじ伏せるまでだ。
━━…行くぞっ!!」



そう言うと、アスベルは剣を握る力を込め、ヒューバートたちに斬りかかった。



「兄さん!やめてください!
あなたは操られているだけです!」
「そう思いたいなら勝手にしていたらいいだろう!
俺はラムダのことを絶対に守る!!」
「くっ!!」
「ヒューバート!ここは戦うしかあるまい!!」



アスベルを傷付けることを躊躇うヒューバートにマリクは言った。
マリクの言葉に他の面々も、躊躇いながらもアスベルと戦うためにそれぞれが武器を手にした。

だが、戦うことに心のどこかで躊躇いがあるヒューバートたちに対し、アスベルに躊躇いはなく、1人、また1人と地に伏していく。

更にバースト技を放っても、ラムダが障壁を張り、弾いてくる。
それだけでなく、その攻撃は自分へと跳ね返ってくるために、下手にバースト技を放つことも出来なかった。



「……少しは共に旅をした仲間だった。
だから、殺しはしない。
だが、もう俺達に二度と関わるな。
もし、次も俺達に刃を向けると言うのなら…その時は命はないものと思って来るんだな。」



全員が立ち上がることもできないくらいにやられ、地に伏したまま動けずにいるその様子をアスベルは見下しながらそう言うと、踵を返し、立ち去っていった。



「兄さんは…本当に操られているわけじゃ…なかったというんですか…?」
「私達も…アスベルと同じようにラムダのことを受け入れていたら…変わったのかしら…?」



指一本でさえも動かせないほど疲弊しきっている中、ヒューバートとシェリアがそう呟く。

そして、その言葉に誰も何も返すことが出来なかった。



「アスベル…、悲しそうだった…。」



少しの沈黙のあとにソフィが悲しげに呟いた。

剣を振るいながらも、アスベルの表情はどこか悲しそうだった。
まるでラムダのことを受け入れようとしてくれないことを悲しむかのようだった。

あの表情を見ていたら操られているようにはとても見えなかった。

本当に優しいアスベルだからこそ、孤独に苦しむラムダのことを見捨てることなど出来るはずもない。

ようやくそれに気付いたところでもう、アスベルはここにいない。

ヒューバートたちはただ、後悔に苛まれたのだった…。


End

※※※

アスベル、ラスボス設定ということでしたが…PMと敵対するとしたら、と考えたときにこんなネタしか浮かばなかった…orz

誰かを守ろうとひたむきなアスベル。
本編の方でもラムダの悲しみや孤独を知って心を痛めていたアスベルならもし仲間たちと敵対することになっても守ろうとするのではないかと思いまして…。

こんなネタしか浮かばないしょぼい頭でごめんなさい…!!

霞韻様…、こんなものでよろしければ、お持ち帰りください!

リクエストありがとうございましたっ!

[*←前] | [次→#]








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -